スフィア・オブ・インフルエンス
「俺が8歳のとき、ヒデ(ZEEBRA)がアメリカで買ってきた『Paid In Full』(エリックB&ラキム)とかの白カセを聴いたのが、ヒップホップにハマったきっかけ。それから、どんどん掘っていったんだけど、もっとも衝撃を受けたのは92~94年ごろのビギーやナズかな」。
SPHERE of INFLUENCEは現在22歳。中学生のときから7年におよぶ歳月をブルックリンにて過ごしてきた彼は、ヒップホップをライフスタイルの一環としてきたという筋金入りだ。初の録音物は、兄であるZEEBRAとの共演で98年にリリースされた“CULTURE UNIVERSAL”。以来、数々の客演を経て、その名を知らしめてきた彼は、それらを振り返りながらこう語る。
「ラッパーになろうと思ったのは2年前。で、1年で結果が出なかったらアメリカに帰ろうと思っていたんだ。でも、相当ライヴして、いろんなフィーチャー物に出たらフィードバックも良くて、イイ流れができた。海外での活動? もちろん視野に入ってるし、すでに動いてる。あっちでレコーディングしているあいだに、雑誌やレーベルを股に掛けて、自分で営業しまくったんだよ。もう、やるしかねぇ!って感じかな(笑)」。
さて、そんな彼がファースト・アルバム『THE INFLUENCE』をリリース。本作には、彼の趣味趣向が存分に反映された、実に多様なビーツがひしめいている。
「ジェイ・Zがヴァリエーションに富んだ曲で多彩なフロウをしているのがカッコイイって思うし。最近のDJを見てても昔に戻る流れっていうのがあるから、昔風のクサい音から、最近のデジっぽい音まで国内外問わず、自分の好きなトラックを選んでみた。で、〈自分が先に立とう〉というのが俺のスタンス。だから、このアルバムはクラシックになることを想定して作った」。
バイリンガル・スタイルでありながら、聴き手に馴染みやすいフロウは印象的。
「声を作ってるヤツはラッパーとして長生きしない気がする。だから、普通のしゃべり口調でやるのがいちばん聴きやすいし、馴れてるし、ライヴでも続くんじゃないかって。やっぱヒップホップはメッセージ性だったり、言ってることがキャッチーだったりという。かといって、ポップという意味じゃなく、自然にみんなが共感できる音楽、それがヒップホップだと思ってるんだよ」。
さらに興味深いのは、彼が紡ぐリリック。必ずや彼と同世代の人々へ訴えるであろう、現在の(日本の)ヒップホップ・シーンから考察してもより共感を得そうな内容なのだ。
「たとえば、俺が〈ブッシュがどうだ〉って言っても説得力がないでしょう?(苦笑)。だから、めざしたのはラップでバイオグラフィー。あとはとりあえず〈ヒップホップは楽しいんだよ〉ってことを伝えたかった。なぜなら、向こうへ行ったとき、初めは友達がいなかったけど、グラフィティを描いてたらすごく仲間ができて、いまだ
にヒップホップを通じて輪が広がっているから」。
海外進出へのヴィジョンが明確な彼だが、日本のヒップホップの水準を高める、といったことにも興味はあるのだろうか?
「多分、必然的に上がると思う。俺たちの世代って、なかなか上の世代の人たちを突き抜けられない世代だと思うし、メジャーに対しての抵抗があったりもするけど。どっから出てきたのかもわからないような俺が、いきなりメジャーから出して〈頑張ればできる〉っていうのを見せれば、若い子がどんどん食いついてくるんじゃないかな?って。その結果、シーンが大きくなることにも、レベルが上がることにも繋がるって、俺は思っているんだよね」。
PROFILE
東京生まれの22歳であるSPHERE of INFLUENCE(スフィア・オブ・インフルエンス)。小学生のころに兄、ZEEBRAの影響でヒップホップの洗礼を受ける。中学のときに渡米、ブレイクダンスやDJ、グラフィティなどを経験し、帰国。98年のZEEBRA“CULTURE UNIVERSAL”で共演したことをきっかけにラッパーとして大きな注目を集め、その後、DJ TONKやm-floをはじめとして数多くの客演をこなしていく。2002年9月にメジャー・デビューとなるシングル“DAY ONE”をリリースし、さらに話題となる。リリースされたばかりのセカンド・シングル“LUV YA”に続いて、このたびファースト・アルバム『THE INFLUENCE』(Def Jam Japan)が10月30日にリリースされる。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2002年11月07日 11:00
更新: 2003年02月13日 12:11
ソース: 『bounce』 237号(2002/10/25)
文/金田美穂子