THE BACK HORN
激しさのなかに垣間見られるやさしさ――さらに艶やかな印象を与える新作『心臓オーケストラ』!
目の前に広がる激しい感情の風景は変わらないが、そこを見つめる視線の高さが変わった。東北出身の彼らに例えるなら、大雪と寒さに閉ざされた窓の外を描写していたのが前作『人間プログラム』だとしたら、このニュー・アルバム『心臓オーケストラ』には、その部屋のなかに暖かい囲炉裏の火がある。その視線の変化は、この1年のTHE BACK HORNの人間的な成長にそのまま繋がっているものだろう。
「『人間プログラム』を客観的に見て、アレはこうだったから今度はこうかな?っていう話は、詞を書くときにメンバーと軽くしましたね。『人間プログラム』は、最初はうわっ!とか思うんだけど、最終的には好きになってしまう音楽、みたいな感じ。でも今回はあきらかに、最初から雰囲気がやわらかくて、穏やかな雰囲気があって。〈ああ、こういうやさしいのもいいなあ〉って思ってもらえると思う」(松田晋二、ドラムス)。
しかし、〈やさしいけど尖ってる〉というのが彼らのいいところで、山田将司のヴォーカルの鬼気迫る表現力はさらに増し、音数を削ぎ落として骨格を浮き立たせ、一音一音の破壊力を増したそれぞれのプレイもすごい。ただ剥き出しの喜怒哀楽があり、生身の人間が呼吸してるのがわかる音だ。
「ウチらの曲って単純でわかりやすいと思うんですよ。アホでもわかるっていうか、アホのオレらでもわかるんだから誰でもわかる(笑)。哲学的というか、難しいこと訊かれると〈いやあ……〉って言うしかないですよ。農家の人が畑を耕すみたいなもんで、耕すんだから耕すでしょう、みたいな……ただクワを持って。それを〈光と影のバランスが……〉とか言われてもあんまりわかんない(苦笑)」(菅波栄純、ギター)。
「でも実は、っていうところもあるんですよ。“ワタボウシ”で〈このコードにこのメロディーが乗ってるのってすごくねえ?〉とか、音楽的にはこだわりがたくさんある。そういう楽しみも意外とあるんで。それは、畑を耕してる以上のものがあると思う」(松田)。
菅波は常に削ぎ落としたがり、松田は常におもしろい音を足したがり、山田は両者のアイデアを比べてどっちがいいか判断する、というのが3人のスタンスらしい。『心臓オーケストラ』というのは読んで字のごとく、多彩な曲たちが奏でるさまざまな鼓動の集合体だが、それは彼ら自身の心臓の鼓動のハーモニーでもあるんだろう。
「それと、聴く人もそれでドクドクいってほしい、って感じですね。前回は〈人間〉っていう漠然とした言葉だったけど、今回はもっとイメージを絞って、核の部分でもっとわかりやすいものにしたくて、つけました」(松田)。
たぶん『人間プログラム』と対で聴くとその真意、そして、順調に進歩を続けるTHE BACK HORNの姿がわかる。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2002年11月28日 11:00
更新: 2003年03月10日 11:58
ソース: 『bounce』 238号(2002/11/25)
文/宮本 英夫