インタビュー

Audioslave



「2年前にザック(・デ・ラ・ロッチャ)が脱退して、みんな驚いたと思う。でも、これでようやく新しい世界が開かれるんだ。クリス(・コーネル)との仕事はインスピレーションに溢れていたね。ほんとに彼には刺激された。クリスといっしょに作った作品こそ、俺たちの最高のものだと思う。いままで俺たちの中にあるってことさえ気づかなかったような、〈音楽の深み〉ってものを得ることができたんだよ。そういうものを生み出せて、とてもハッピーだ」(トム・モレロ)。

 衝撃的だったザック・デ・ラ・ロッチャの脱退。ようやく彼ら──レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンは帰ってきた。新しいパートナーは元サウンドガーデンのクリス・コーネル。〈サウンドガーデンの魂と、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの肉体の融合〉──オーディオスレイヴの誕生である。

 もちろん、レイジの後任ヴォーカリストとしてクリスが迎えられた、というような単純なものではない。ザックという希代のアジテイターとは正反対の資質を持つクリスと組んだ時点で、レイジとはまったく異なるケミストリーが起こった。わずか19日間で21曲を書き上げるという異様なテンションとヴォルテージで制作されたファースト・アルバム『Audioslave』は、驚くほど正攻法で力強いハード・ロック・アルバムとなった。

「レイジの『Renegades』でもプロデューサーを務めてくれたリック・ルービンがクリスを紹介してくれたんだ。彼は俺たちにとって憧れのミュージシャンだった。サウンドガーデンも尊敬していた。レイジ結成時も参考にしたよ。だからクリスといっしょにやれて、すごく興奮したよ。彼と初めてリハーサルをやったときのことはよく覚えている。幸福な体験だった。ザックのようなラップは必要ない。彼は素晴らしい声をしているから、それだけで十分なんだ。彼のヴォーカルに焦点を当て、一歩下がって合わせていくみたいな部分があったからハードではあったけど、そういうチャレンジは楽しかったしエキサイティングだった」(ブラッド・ウィルク)。

「いっしょに仕事したことのないメンツだから、どういうものになるかわからなかったけど、とても楽しかったよ。俺はラッキーだった。短期間で友達になれたからね。ほかのバンドじゃ、こんなに仲良くはできない。トムのギター・アプローチも、リズム隊もサウンドガーデンとはぜんぜん違う。リフとグルーヴ重視というか。そうした演奏に俺のメロディーを重視したサウンドガーデン流ヴォーカルが乗る。そうすることで、よりソウルフルなロックになったと思う」(クリス)。

 シングル・カットされた“Cochise”は、クリスがソロ・アルバムではあえて封印していたヘヴィー・チューン。だがアルバムはバラエティーに富み、レイジでは考えられなかったようなドラマティックなバラードも聴ける。共通するのは美しくエモーショナルなメロディーだ。サウンドガーデンのファンなら溜飲を下げることは間違いないし、レイジのファンは彼らの新しい魅力を発見することになるだろう。もちろんトムのトリッキーなギタープレイも随所に聴ける。AC/DCやスレイヤー、レッド・ホット・チリ・ペッパーズを手掛けたリック・ルービンがプロデュースを務め、自我の強いメンバーを見事にまとめあげた。

「彼はいままでのプロデューサーでいちばん情熱的だった。それこそが俺たちの求めていたものだった。アンプの調整とかドラム・サウンドとか、レコーディングで大事なことはいくつもある。けどいちばん肝心なのは、赤いボタンを押すときの、そこにいる人間の魂なんだ。その情熱がすべてテープに込められていく。それが俺たちの作ったものさ」(トム)。

 オーディオスレイヴはアルバム2枚を制作予定。だが手応えを感じたメンバーの目は、早くもその先に向いている。まさにスーパー・グループの誕生である。

PROFILE

80年代後半~90年代初頭のグランジ・ロック・ムーヴメントを牽引していたサウンドガーデン。しかしバンドは97年に解散し、クリス・コーネル(ヴォーカル)はソロ活動を開始させた。一方、90年代初頭に登場し、後のヘヴィー・ロック・シーンを築き上げたレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン。2000年にフロントマンのザック・デ・ラ・ロッチャがバンドを脱退、トム・モレロ(ギター)、ティム・カマフォード(ベース)、ブラッド・ウィルク(ドラムス)は後任のヴォーカリストを探していた。去就が注目されていた両者が合流し、レコーディングを始める。二転三転していたバンド名も決定し、ファースト・アルバム『Audioslave』(Epic/エピック)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年11月28日 10:00

更新: 2003年02月07日 15:18

ソース: 『bounce』 238号(2002/11/25)

文/小野島 大