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インタビュー

GRAPEVINE

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幅広いヴァリエーション、絶好調のバンド・アンサンブルが楽しめるニュー・アルバム到着!!


「なんだろ……閉塞感、みたいなものを普通に感じたんですよ」。

リーダーであるGRAPEVINEのベーシスト、西原誠は、前作『Circulator』についてこう述懐する。西原の病気療養のため、結果的に彼を欠いた3人でほとんどを仕上げることになった『Circulator』は、溢れる勢いのなかにさまざまな音楽的な実験を忍ばせた快作ではあったが、そこには同時に、ポッカリとあいた喪失をタイトな結束によってガムシャラに乗り越えようとする3人の姿が垣間見えもした。西原はもともとGRAPEVINEを立ち上げた張本人であるからして、むべなるかな、という感じだが、彼が復帰した新作『another sky』を聴くと音に格段の〈余裕〉が張り付いていることが窺い知れ(先行シングル“ナツノヒカリ”の目の覚めるようなサビメロの多重コーラス・アレンジ!)、やはりパズルのピースが揃った快感はなにものにも代えがたい。

「なんでもありっていうか、GRAPEVINEってバンドの許容量を広げていく歴史だった気はしますね。頭をどんどん柔らかくしていく、ヘンなこだわりを捨てていく歴史と言いますか」(田中和将、ヴォーカル/ギター)。

98年のファースト・フル・アルバム『退屈の花』から『another sky』へ至る道程を田中はこう振り返る。渋好みな60~70年代ブリティッシュ・ロックをモダンに咀嚼するバンドの力量、メンバー全員が手掛ける作曲能力の高さ、ヴォーカリスト、田中和将のフロントマンとしての魅力的な佇まいなど、ファーストの時点ですでに完成していたと言っても過言ではないGRAPEVINEが、作品をリリースするごとにフレッシュさを失うことなくヴァリエーションを広げていっている姿、その帰着点とも言えるのが『another sky』である。そのヴァリエーションの部分で大きな役割を果たしてきたのが、前作『Circulator』リリース後のライヴ・サポートを務めてきたサニーデイ・サービスなどでお馴染みのキーボーディスト、高野勲だろう。例えば、初めてレコーディングから全編で参加した本作での、“LET ME IN~おれがおれが~”というナンバーで炸裂するハモンド・オルガンのアグレッシヴな響きは、もはや楽曲になくてはならない味付けとなっている。

「(レコーディングでも)気がついたらメガネがズレてるんですよ(笑)。ライヴでも高野さんがいるだけで全然演奏が変わってきますし」(亀井亨、ドラムス)。

ライヴでの、ヘッドバンギングの嵐なキーボード・プレイの勢いはそのまま本作に横溢しているが、ハモンドをはじめ、ウーリッツァー、ローズ、アコースティック・ピアノ、シンセなどの多彩な楽器でサウンドにふくよかな奥行きを与えている点は特筆すべきで、『another sky』の〈余裕〉にいちばんの貢献をみせている。それはまるでトラフィックのアルバムを聴いているかのようなバンド・アンサンブルに結実。

そしてヴァリエーションを広げ続けたと言えば田中和将の歌詞も挙げねばならないだろう。「分裂っぽいですよね(笑)」と西原が言うように、センチメンタルな風景を描き出したかと思えば、別の曲では言葉遊びのような逆ギレ感を見せるという、ちょっとあり得ない振幅の言語感覚を本作でも爆発させている。

「書き始めたら別の人格になってたりするわけですよ。いまはアイデアをあれも入れたいこれも入れたいって感じで、どれを捨てるのか迷ってしまう状態(笑)」(田中)。

そんなふうに、生楽器とあらゆるアイデアのアンサンブルだけで、ここまでの楽しさを味あわせてくれるバンド・サウンドは、そうない。パズルのピースは揃った。GRAPEVINEは絶好調だ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年12月05日 12:00

更新: 2003年02月07日 15:09

ソース: 『bounce』 238号(2002/11/25)

文/内田 暁男