The Sea And Cake
極上! シー・アンド・ケイクが〈ベッドルーム〉から届けてくれた、柔らかで力強い未来の歌
「今作は僕らのキャリアにおいてもっともムードがあって、ダークな作品だと思う」と、はにかむように微笑むサム・プレコップ(ヴォーカル/ギター:以下同)。なんだか謎掛けみたく響く発言だ。そもそも僕らはこれまでシー・アンド・ケイクの音楽をフォルムではなく色や空気で識別するように接してきたわけだけど、結局はっきり認識できないままになっていた。新作『One Bedroom』を聴いても以前と同じ状態を味わっている。ただダークという点を考えれば、黒々とした深みまで案内してくれそうな作品といえるかも……あぁ、またしても抽象的な表現を用いる羽目に陥っちゃってるよ。
「その傾向を改善するのに僕はあまり手助けしてないんだろうね(笑)。僕らの音楽にはミステリアスな要素があってほしいと願ってるんだ。あと、自分がなにをやってるのか完全に理解してないっていうことも、その理由なのかもしれない(笑)。僕もあまり抽象的な表現以外で音楽を説明するのが不得意。歌詞も決して並行的ではないしさ。だからリスナーもそう捉えてしまうんだと思う」。
さて、完成度が高い作品に仕上がっていた前作『Oui』。新作へのプレッシャーはなかったのだろうか。
「前作とはまったく違う作品を作りたかったけど、無理矢理違う方向性を見つけようとしたわけじゃない。存在感が前面に出てるサウンドとエネルギーのある作品にしたかったんだ。今回はギターよりも、シンセのループからアイデアを拡げていくことが多かった。モジュラー・シンセを最近入手してさ。シンセの音に反応してギターを弾いてたから、いままで思いつかなかったようなギター・フレーズを作り出すことができたよ」。
確かにエレクトロニックなアイデアから出発したと思わしき楽曲が多数ある。なるほど、それが作品全体に微妙なざわめきを招いている理由のひとつなわけか。そういや、デヴィッド・ボウイ“Sound And Vision”のカヴァーがあったりして、実に兄貴的な振る舞いを見た気がする。でも相変わらず、アーチャ-・プレウィット、ジョン・マッケンタイア、エリック・クラリッジとの関係が良好そうな雰囲気が伝わってくるね。
「実は、ツアー前やアルバム制作以外はあまり全員で練習することはないんだ。昔は毎週集まってたんだけど。各自が個別にプロジェクトをやってるからね。でもだからこのバンドは長続きしてるのかもしれない」。
バンド内であなたの役割は?と訊くと「僕は……独裁者かな。いや、そんなことないよ(笑)」とジョークで流した彼。ほどよい煮詰まり具合が彼ららしさを保つ秘訣なんだろう、と本作の感触を確かめながらそう考えた。耳の奥にじんわりと微熱が宿る貴重な音楽体験を約束するこの新作。兄貴たちの〈ミステリー〉はまだまだ継続中。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2003年01月16日 12:00
更新: 2003年01月22日 13:23
ソース: 『bounce』 239号(2002/12/25)
文/桑原 シロー