M.O.S.A.D.
「もともと音楽的な付き合いでもなく、普段からいっしょにいた仲間。メンバー以外でいっしょにいる奴らも含めて俺らって形で、音録るのがそのうちの4人だったって話」(EQUAL)。
前身のMASTER OF SKILLZから数えて6年あまり。同時期に結成された刃頭とのユニット=ILL MARIACHIで、地元名古屋はおろか全国のリスナーに名前を知らしめたTOKONA-Xは、その一方で(本人いわく「血より濃い何か」を共有する)同世代の仲間たちと、自分たちの世代の刃を研いできた。そして、彼を含むその輪の一部は2000年、EQUAL、AKIRA、FIXERというメンバーで現在の形へと落ち着いた。名前をM.O.S.A.D.と改めて。
「オレらの世紀ってことで、M.O.S.(MASTER OF SKILLZ)にA.D.(西暦、紀元の意)をつけた」(TOKONA-X)。
そんな彼らのグループ名の由来は、2002年も後半を迎えたいま、いよいよ現実になろうとしている。改名以降、単独リリースはなかったものの、MCの3人はBACK GAMMONや餓鬼レンジャーなどの音源へ参加。OZROSAURUSには当のMACCHOらとのユニット=YOUNGGUNZとして客演を果たし、TOKONA-Xに至ってはILL MARIACHIの再始動を皮切りに、HARLEMのコンピにもD.O.I.と顔を出したほか、DABOのアルバムにも登場……と、各人の動きは活発化していくばかりだった。そこへ持ってきて、グループとして2か月連続のマキシ・リリース。そして今回ファースト・アルバム『THE GREAT SENSATION』がリリースされた。M.O. S.A.D.は、まことしやかな噂とともに人の口にのぼるグループから、より確かな、姿の見える存在となったわけだ。ただ、彼らには初のオリジナル・アルバムへの戸惑いも迷いもなかった。なぜなら彼らが「作るべきもんはわかってた」(TOKONA-X)から。録音も「それぞれがそれぞれの役割を果たす」(FIXER)作業にすぎなかったということだ。
「M.O.S.A.D.はM.O.S.A.D.で、いつも通り」(AKIRA)。
「結局、みんなが作ってきたものが集まるだけの話だから」(EQUAL)。
そんな彼らの口から語られるストーリーには、時として胸が悪くなるよなグロテスクさが顔を出す。ただ、それは彼らの露悪的なポーズでもフィクションとして劇画化されたものでもないようだ。
「自分の住んでるところで何が起きてるか、周りで見たこと聞いたこと、経験してきたこと然り、実際起こりうることも然り、そういうのを合わしてみんながわかるような音楽にしたいとは思ってる」(TOKONA-X)。
彼らは彼らなりの〈現実〉を、自分のペンですくいあげているだけのこと。驚くなかれ、そんな〈現実〉は彼らが楽しみから生み出したものでさえある。
「そういうことしか歌えないんですよ。〈聴く人が望んでるから〉とかはできないし、そっちのほうが難しい。簡単に楽しくラップするとこういう感じになる」(EQUAL)。
名古屋には彼ら以外にも多くのヒップホップ・アクトがいる。シーモネーター&DJ TAKI-SHITを筆頭とする男塾の面々然り、彼らとも交流をまじえる最狂音術師=刃頭然り、メジャー・デビューが噂されているNOBODY KNOWS然り。それゆえかM.O.S.A.D.の4人に名古屋を代表するという気負いなどはなく、あくまでも音楽は「名古屋に住む俺ら(=自分)」(EQUAL)を映すものでしかないという。ただ、彼らやPHOBIA Of THUGらを中心とするNotorious Entertainment(レーベルとしても機能)として名古屋圏のヒップホップ/ハードコアをまとめる裏には、当地のシーンなるものを見据えた彼らなりのヴィジョンがある。それがどんな実を結ぶか、彼らの音楽とともに注目だろう。
PROFILE
TOKONA-X(MC)、EQUAL(MC/トラックメイカー)、AKIRA(MC)の3人により、96年にMASTER OF SKILLZとして名古屋で結成。同年に12インチ・シングル“M.O.S.”でデビュー。TOKONAがILL MARIACHIとしても活動する一方で、グループはイヴェントなどを通じて地元に活動基盤を築き上げる。2000年にFIXER(DJ/トラックメイカー)が加入してM.O.S.A.D.に改名。その後は個々がOZROSAURUSや餓鬼レンジャー、D.O.I.らの楽曲に客演し、注目度を増していく。2002年9月に“Fabulous(REMIX)”、10月に“If I...”とシングルを連続リリース。このたび待望のファースト・アルバム『THE GREAT SENSATION』(MS)がリリースされたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2003年01月23日 12:00
更新: 2003年03月06日 16:29
ソース: 『bounce』 239号(2002/12/25)
文/一ノ木裕之