インタビュー

Turin Brakes



 トゥーリン・ブレイクスが2000年にリリースしたデビュー・アルバム『The Optimist LP』は、イギリスでは驚異的な話題を呼んだ。各音楽誌が絶賛し、いくつかの賞にもノミネート。新人らしからぬ賛辞を受け、次のアルバムに対して少なからずのプレッシャーがバンドの2人にのしかかったと思うのだが……。力強く、ナイーヴだが過剰な感傷はまったくない歌声の持ち主、オリー・ナイツと、歌世界を詩的感覚で広げていくようなギターを弾くゲイル・パリジャニアンの2人は、そんなプレッシャーを見事にはね返し、この情感あふれるセカンド・アルバム『Ether Song』を作り上げた。フォーキーなデビュー作と比べて今回のアルバムは、どのように変化したのだろう?

「違いはものすごくある。意識して前作とは違うものを作りたいと思ってたんだ。前作よりも音数を増やして聴き手の耳を刺激したかった。ドライなアコースティック・アルバムじゃないってこと」(ゲイル)。

「デビュー・アルバムを買った人たちの共感は得られないかも。そのくらい、変化した。でもその作業はとてもエキサイティングだったんだ!」(オリー)。

 そのエキサイティングな体験のひとつが、今作をLAでレコーディングしていること。そして、外部プロデューサーとしてベックやスーパーグラス、エールらとの仕事で知られているトニー・ホファーが迎えられた。

「スーパーグラスとの仕事の時、トニーは3か月イギリスにいたそうなんだけど、イギリスのスタジオはどれも使い物にならないって思ったそうで(笑)、それで僕らがLAに行くことになったんだ。素晴らしかったよ! エネルギッシュなあの土地で水を得た魚みたいになったよ」(ゲイル)。

「イギリスのどこかの暗く寒々しいスタジオでじっと作業していたらきっと書けないようなものが出来たんだ」(オリー)。

 そんなLAという土地が2人をオープンにしたのか、本作ではベック・バンドやエールのメンバーらとライヴ録音をしたという。

「僕らは興奮してエネルギー一杯の演奏をしたね。そんなことも初めてだったし」(ゲイル)。

「エレクトリック・ギター、サンプラー、キーボード……。とにかく新しいサウンドのために、たくさんのものを導入したな」(オリー)。

 ニック・ドレイクやレディオヘッドなどが引き合いに出される彼らだが、確実に自分たちの音を構築し、この新作でも新たなチャレンジによって世界観を広げていっているようだ。

「うん。〈この曲は前作っぽくない、フォークじゃない。だからリリースしちゃダメだ〉なんて思わなくなったね。」(ゲイル)。

「ファースト・アルバムのサウンドはジョニ・ミッチェルやレナード・コーエンなん
だけど、今回はそれらにさまざまな要素、例えばエレクトロニックなものとかを加えた混合だな」(オリー)。

 そんな彼らのサウンドにのる歌詞/テーマは、一体どんなものなのだろう?

「う~ん。雑多で範囲が広いからなあ。まず自分自身とは何か、自分の手の内にあるものや、めざすものが何なのかを発見すること。そして、そこには何があるのか。森羅万象の壮大な仕組み、どんなに小さな粒子でも、大きな粒子と同じ重要性を持っている……。そんなスピリチュアルなことかな」(ゲイル)。

 さて、イギリスでは自分たちのライヴはもちろん、デヴィッド・グレイの前座などで大きなステージもこなしている彼ら。「デヴィッド・グレイもスゴイ人だけど、夢の前座といったら……プリンスだな。最高のステイタス・シンボルだから」(ゲイル)と語ってくれたが、この新作によってワールドワイドに成功し、日本でも彼らの知名度がグンと上がれば、次はトゥーリン・ブレイクスが前座バンドを選ぶ番だ。その日はそんなに遠くない。

PROFILE

トゥーリン・ブレイクス
小学生の頃からの知り合いだったオリー・ナイツ(ヴォーカル)と、ゲイル・パリジャニアン(ギター)によって、99年に結成される。同年に“The Door”でデビュー。そのヒットを受けて、2000年に “The State Of Things” “Fight Or Flight”をたて続けにリリース。2001年には、ファースト・アルバム『The Optimist LP』を発表する。同作がマーキュリー音楽賞にノミネートされるなど、各方面で絶賛を浴びるなか、初の全英ヘッドライン・ツアーを敢行。“Under Dog(Save Me)” “Emergency 72”と好調にリリースを重ね、2002年に新作からの先行シングル“Long Distance”を発表。注目を浴びるなか、待望の新作『Ether Song』(Source/Virgin/東芝EMI)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年02月27日 17:00

更新: 2003年03月10日 12:04

ソース: 『bounce』 240号(2003/2/25)

文/米田 貴弘