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インタビュー

American Hi-Fi


 いっそう熱く、逞しく、艶めかしく吠えるステイシー・ジョーンズ参上! ご存知のとおり、彼はヴェルーカ・ソルト解散後、ドラマーからヴォーカリスト&ギタリストへと転進、そして結成したのがアメリカン・ハイファイだ。2作目にして早くも全盛期突入を確信させてくれる仕上がりを示してくれた。最新作『The Art Of Losing』、ここで展開するのは激情の牙と茶目っ気の八重歯がつぎつぎに光るロックンロール・エンターテイメント・ショウ。興奮回路が常時オン状態にさせられること間違いなし。これはサウンド・メイキングの向上によるのはもちろんだが、ステイシーのシンガーとしての成長による部分も大きい。

「歌うことに対して前より自信がついたね。今回のアルバムでは自分の不安定な部分をさらすことを前より恐れなくなった。ということは最初のアルバムのときはいろんなことを隠しがちだったってこと(笑)? いまの俺にとってはドラムも歌もどちらも等しく満たされるものになったんだ」(ステイシー・ジョーンズ:以下同)。

〈自分たちが受けた影響をすべて反映したい〉ということをたびたび公言しているのがこのバンドだ。そして、実現されてきたのはスピードとビートにまみれまくるロックンロール黄金律であった。それが具体的にはどのようなルーツを持つのか一目瞭然な興味深い1曲が本作には収録されている。“The Breakup Song”、歌詞中に〈My Bloody Valentine/The Pixies/Cheap Trick〉という一節が登場し、AC/DCの名盤『Back In Black』も挙げられて締めくくられる。少々呆れてしまうほどにわかりやすいやつら(笑)。だがこの潔さこそが彼らの音の肝だといえるだろう。

「受けた影響を誇らしげに表に出したり示唆するのは俺たちにとっても楽しいしね。今回はそういうアルバムだよ。こういう音楽をやれば、俺たちが好きだったバンドが命を保ち続けていく助けにもなるだろうし」。

 ロックンロールへの愛情を惜しみなく鳴らすサウンドは、ポピュラリティーの塊を突きつける。しかし、そこに染み込んでいる感情は実はかなり複雑に揺れている。この陰影の存在が、アメリカン・ハイファイをいっそう際立たせているように思うのだ。たとえばタイトル曲“The Art Of Losing”。〈負けの美学〉という文字どおりの意味から敗北主義を予期しつつも、聴き進むにつれてむしろ逆の感情が湧き起こる。

「俺にとって“The Art Of Losing”は、自分のやり方でやれ、周囲の人間が何と言おうと自分のやりたいようにやれ、ということなんだ。そうすれば、他人に負け犬だと言われたとしても、敗者になることはないんだよ。常に勝利を収めていることになる。だって、自分のやりたいことをやりたいようにやっているんだから」。

 その他、日々暮らすなかで感じる閉塞感、連綿と続く迷いを描いた曲が本作には数多い。自身を囲む壁に絶えず向き合うこのひたむきさは、どこかティーンエイジャーのような気概を本作に与えている。

「人生で辛いことが起こったときはいつも音楽がそばにあったんだ。俺ってティーンエイジャーのときと気持ちはぜんぜん変わっていないと思う。そういうのが曲に反映されるんだろうね。いまも昔もティーンエイジャーの悩みは変わらないだろうし、そういう部分に共感してもらえるんじゃないのかな」。

 憧れていたミュージシャンに対するリスペクトを真っ直ぐに反映した音、反骨の意思を湛えた言葉。この絡み合いがスリルとヴァイタリティーを互いに増幅し合いながら、叙情と純情に満ち溢れたロックンロールを鳴らす。筋骨隆々の両腕を誇示しつつも、瞳は途方もなく瑞々しく潤んでいる。アメリカン・ハイファイはいま、そんな青い生命力で漲っている。

PROFILE

アメリカン・ハイファイ
90年代にUSロック・シーンで活躍したレターズ・トゥ・クレオ~ヴェルーカ・ソルトに在籍していたステイシー・ジョーンズ(ヴォーカル/ギター)が、ブライアン・ノーラン(ドラムス)、ジェイミー・アレンジ(ギター)、ドリュー・パーソンズ(ベース)を迎えてバンドを結成。2001年8月、ファースト・アルバム『American Hi-Fi』を発表し、収録曲“Flavour Of The Weak”がビルボード・モダン・ロック・シングル・チャートで5位を記録するなど、ファンからの大きな期待とともにデビューを果たす。2002年には〈フジロック〉へ出演し、次作に向けてレコーディングが開始される。このたびセカンド・アルバム『The Art Of Losing』(Island/ユニバーサル)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年03月06日 11:00

更新: 2003年03月14日 21:27

ソース: 『bounce』 240号(2003/2/25)

文/田中 大