インタビュー

SLEEP WALKER


 SLEEP WALKERはオーソドックスな編成のジャズ・バンドである。打ち込みのビートは入っていないし、DJがメンバーにいるわけでもない。なのに、その演奏からは新鮮なダイナミズムがストレートに伝わってくる。

「僕らもストレートに楽しんでいるのは確かだけど、〈楽しい〉というのが緩い感じに受け取られると困るな。自分がこれをやりたいということをみんなが突き詰めた結果だから」(中村雅人)。

〈ストレートなジャズ〉というと意味が違ってきてしまうのだけど、SLEEP WALKERはジャズと言い切れるだけのストレートに伝わる何かを、しっかりと掴み取っているバンドだと思う。そのストレートな感じは、狙おうとしても簡単に得られるものではないだろう。

「それは、はみ出ているところがあるってことだと思うんですよ。はみ出ている音っていうのがなかなか聴けなくなってますよね、最近は」(吉澤はじめ)。

 確かに、ファースト・アルバム『SLEEP WALKER』の音は丁寧に編集を施されたものではない。しかし〈自由奔放にやる〉という心意気や姿勢だけで、ジャズという音楽から新鮮なものを引き出すのは、現在なかなか難しい。そこで打ち込みのビートを導入することもできただろうが、SLEEP WALKERはそうしなかった。クラブ・ジャズのシーンとも深く関わってきた吉澤はじめや中村雅人のキャリアを振り返ってみるならば、当然そういう選択もあったはずなのに。

「僕や雅やん(中村)は純粋にジャズをずっとやってきたんじゃなくて、その間にジャズ以外のものも通過してきているんで、改めて〈演奏者のジャズ〉をやりたかったんです。ただ、やるにあたって、ジャズのクラブでやっているスラッとしたジャズじゃなくて、何か引っかかってくるジャズがやりたいなというのがあった」(吉澤)。

〈引っかかってくるジャズ〉とは何か。それは、吉澤と中村が共演者として選んだ2人のプレイヤーがあきらかにしてくれた。彼ら2人はおもにジャズ畑を歩んできた実力派だ。それだけに、これまでの活動とSLEEP WALKERでの活動との違いがはっきりと見えている。

「曲が難しいわけじゃないんですが、プレッシャーがすごいんですよ。このなかでどう展開していくんだろうとか。そういう意味で、ほかの3人から僕はオーラみたいなものを感じて、それは僕にとってすごくジャズを感じるってことなんです」(藤井伸昭)。

「この曲を自分としてどう考えるのか、ほかの3人はどう考えているのか、それをつねに自分のなかで浮かび上がらせるんです。いわゆるジャズのセッションではまずそういうことは考えないですね。ジャズのサークルにいると、とりあえず弾くことに馴れてしまうから」(杉本智和)。

 ジャズだけどジャズじゃない。そのアンビヴァレンスな感情を4人は共有している。それは少なからぬプレイヤーが抱く感情でもあるだろうが、彼らはあくまでプレイヤーとしてそこから一歩を踏み出してみせた。

「世の中に流通している音楽では、だんだんとプレイヤーのエゴが薄くなってきていると思うんですよ。このバンドにはそういうエゴが強い人たちが集まっている。それがいちばん強力に思うことですね」(吉澤)。

 打ち込みのビートと生演奏のコンビネーション(クラブ・ジャズ)や、精巧に施されたポスト・プロダクション(ポスト・ロック)などにおいては、ときとしてプレイヤーのエゴは否定的に捉えられてきた。そんな季節も経験してきたからこそ、彼らのプレイヤーとしてのエゴは、次なるダイナミズムを伝え始めているのではないだろうか。

PROFILE

97年、当時MONDO GROSSOのメンバーでもあった中村雅人(サックス)と吉澤はじめ(ピアノ)を中心に結成。沖野修也がオーガナイズする東京・渋谷のクラブ〈THE ROOM〉などを中心にライヴ活動をおこない、2000年には12インチ・シングル“AI-NO-KAWA/RESURRECTION”を発表。その後、OrganLanguageや綾戸智絵のレコーディングに参加してきた杉本智和(ベース)、国内外のさまざまなアーティストとの共演を重ねてきた藤井伸昭(ドラムス)が参加し現在の編成となる。昨年には吉澤がソロ・アルバム『HAJIME YOSHIZAWA』を発表。SLEEP WALKERとしての活動にも注目が集まるなか、ファースト・アルバム『SLEEP WALKER』(KSR)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年03月06日 12:00

更新: 2003年03月06日 16:26

ソース: 『bounce』 240号(2003/2/25)

文/原 雅明