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インタビュー

CICADA


「人間だとか世界を取り巻くものだとか、それを集約して〈サイケ〉と言うんだろうけど、自分は音楽用語で言うなら〈テクノ&パンク〉だと思う。隅から隅まで上から下まで右から左まで前から後ろからのすべて、その真ん中の〈密〉を出したかった。欲張り日本人的なところが出てて、パンクも入れたい、サイケも入れたい、テクノも入れたい、ドラムンベースも入れたい、何でも入れたい、そこでどう統一性を持たせるか、それが1曲の中に入ってる。で、小中学生諸君でもわかるようにしたかった。いまこうしてパッケージされてるじゃないですか。皆CDデッキに入れた途端、分裂が起こるんですよ(笑)。グァーって。〈マジかよ、これ!〉ってことになってくれたらおもしろいなと。ここからいろんな曼陀羅が発生すればいい」。

 ライヴ音源をコンピュータで加工編集した前作『GIG-GIGGER-GIGGEST』は端正にエディットされた肉体感溢れるグルーヴで非常に評価が高い作品だったのだが、「まだ考え込めてないっていうか、絞り込めてなかった」らしく、この新作『SIMPLE CHAOS STEREO』でやっと思うものが出来たという。

「もう壊れそうでしたよ、マジで。こんな短期間で良くやったなこいつ、って逆に思いますよね」。

 制作期間はわずか1か月半。重なりあうシンプルなギター・リフあり、涼しげなシンセあり、ディストーションの轟音ありと、サウンドは実に色彩に富んでいるが、全編4つ打ちにピコピコ音が散りばめられ懐かしい空気も漂うのは、彼自身のクロスオーヴァーが80年代後半のハウス・ミュージックから始まってるからだそうだ。

「10数年前のチープなハウスのあの情けなさを、いまアップデートするとこうなるんじゃないかなと。そこはすごく気にしましたよ。ハウス・ミュージックの懐の深さにもリスペクトしたかったし、逆に4つ打ちのなかで〈ここまで狂えるんだ〉っていうことも見せたかった。そこへのアナーキーな感覚もあると思うんですよ」。

 音楽にカテゴリーがあるのは、大人になるとき自分を削って社会のどこかに当てはめなくてはならない状況に似ている。が、実は自分のリアリティーを一点に絞り込むのもまた大人のスタンスだったりする。その道は社会とも己とも格闘を余儀なくされるので、世の中が避けているだけなのだ。

「一個のところを通過しないと作品は出来ない。量子物理学でいうブラックホールとホワイトホールも、思いっきり密度上げていくわけじゃないですか。そこなんですよ。無くなる寸前まで行ってリリースされるものが新しいものだから、そこをキャッチしてほしいっていうのもある。まあ、こんな難しい話はどうでもいいんだけど(笑)」。

 ワビとサビの、ワビのほうの考え方ですね、これは。

「自分を取り巻く周りのことはすべて気になるんで、死ぬまでにすべてに首を突っ込みたいなと思って。気にならないものがない。だからこういうふうに情報が死ぬほど蔓延してるのは嬉しいけど悲しい。全部押さえなきゃだめだから」。

 CICADAはどこまでも欲張りだ。余談だが、今作へ収録されている数曲はEDWINのCMソングにもなっていて、2002年の大晦日にはボブ・サップと共にお茶の間へ登場、めでたく小中学生諸君も聴くところとなったそう。日本のアートには、ひとつの作品へ自分にとっての宇宙のすべてを表現しなくては気の済まない連中の流れが存在している。空海がそうだし、千利休や侘び茶の連中もそうだと思う。ラップトップで音楽をコンパイルできる時代になっても、CD1枚へ己の宇宙を詰め込もうとするCICADAの格闘は続く。

PROFILE

CICADA
楽曲制作~デザインなど、すべてをひとりでこなす小川裕史によるユニット。90年初頭にはジャンク・バンド、馬牛馬のメンバーとして活躍。当時、シーンを席巻していたハウス・ムーヴメントの影響を受け、新たなステップとしてCICADAを結成する。2000年にはバンド・スタイルでのライヴ・アルバム『CICABOW』を発表。2002年にはライヴ音源を再編集したアルバム『GIG-GIGGER-GIGGEST』をリリースしている。つぎつぎと演奏形態を変化させてきたCICADAだが、同年11月のイヴェントではラップトップ+生演奏というスタイルでライヴを披露、新作への期待をさらに高めた。3月5日にはニュー・アルバム『SIMPLE CHAOS STEREO』(ミュージックマイン)を発表する。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年03月06日 13:00

更新: 2003年03月06日 16:24

ソース: 『bounce』 240号(2003/2/25)

文/星 憲一朗