インタビュー

O.N.O.

より深くより緻密に──THA BLUE HERBのトラックメイカーがソロ・アルバムを発表!!


「スタジオの外に階段があって、その上り下りの6か月日記ってことです」。THA BLUE HERBのトラックを手掛けるO.N.Oのソロ・アルバム『six month at outside stairs』がリリースされる。いやだけど、むしろこれは〈物語〉に近い。「頭のなかでイメージしたものを最初から作っていった」。とても注意深くゆっくりと、それでいて真っ暗闇のその先には何の躊躇も迷いもない、と断言するかのようなビート──“spasmodic”、それがこの旅のはじまりだ。

「“sigh”は2月の夜の2、3時をイメージして作ったんだけど、あまりにも寒くて、空気も音も異常なくらいキーンとしてる。リリックが乗らないとしたら空気しかないと思うんだよね。……うわものの雰囲気と重なり具合、ドラムの進行の仕方、その大きな流れの公倍数の進み方が好きかな」と語るこの曲を頂点にするように、アジア的で幻想的な喧噪のなかを夢うつつにゆっくりと歩きはじめる。「オリエンタルな感じはカラーとして出るんだね」。

「“bg072”は意外でしょ? ここ1年テクノでばっか遊んでたから。こういう4つ打ち崩したブレイクビーツを作ってみようかなと思った」。ここから一気に人の気配を感じなくなる。無機質なトラックは否応無しに孤独感を増し、リスナーを深みへと誘う。

「ヒップホップはいっさい意識してない。THA BLUE HERBのときは最新ヒップホップを作るつもりでいるけど、そうじゃなくて最新音楽を作ろうと思った」と言う彼にとって、これはたしかにTHA BLUE HERB名義では決して聴くことのできない作品だろう。

 そしてラスト“eretient”へ。「この曲だけすごく時間がかかった。こんなビート入れちゃって結構実験してるなって思いながらも、最終的にこの曲があるから、他の曲でもっと遊んでもいいよねって」。

 彼の音世界は繊細だ。それははからずも彼が意識しなかったというヒップホップのそれに通じる気がしてならない。例えば膨大な音のカオス状態からピンセットでひとつのサンプルをつまみあげるかのようなそんなストイックさに似ている。そしてその細やかさのなかから生まれる発想が、1曲目で聴こえたあの音が2曲目のどこかにこっそり隠されているような、そんな錯覚を覚えさせたり、それゆえのアルバム全体の統一感を作り上げたりしているのかもしれない。

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掲載: 2003年03月13日 12:00

更新: 2003年03月13日 19:01

ソース: 『bounce』 240号(2003/2/25)

文/加藤 由紀