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インタビュー

Yo La Tengo

タイトルを重ねるごとに深みを増していくヨ・ラ・テンゴの世界。夏の想い出を滲ませた最新作『Summer Sun』は、またしても最高傑作の予感を放つ仕上がり!!


思えば前作『And Then Nothing Turned Itself Inside-out』の最終曲“Night Falls On Hoboken”で夜の静寂に包まれたニュージャージー州ホーボーケンの風景。しかし、それから2年。そして迎える10回目の夜明けは、やはり霞がかかったような扉を押し開けることから始まる。そこに横たわるのは眩いばかりの夏の陽差し? しかし、体感温度はうららかな春のそれ。新作はノイズ・ギターは控えめながら、ファンキーともいえるしなやかなテクスチャーが露わになった逸品。シンプルな好タイトル『Summer Sun』の裏側には、しかし、人間らしい柔らかな希望が込められている。これから到来する夏への願い、そして、今まで経てきた夏の記憶。それでも、そこは彼らのこと。飄々としながら日々の営みから外れることはない。素晴らしい。

「僕らが自分たちの生活をベースに曲を書いていることは確かだよ。だからそれは新しいアルバムにも反映されているはずだよね。希望的なフィーリングがこのアルバムにあると思うし、安心や励ます気持ち、友情みたいなものもあるんじゃないかな。だから、もしかしたらそれが僕らのリアクションなのかもしれない。そうだとしたら僕は嬉しいし、誇りに思うよ。だってそれは僕らが人としてとった自然な反応を反映しているんだからね」。

とはヨ・ラ・テンゴの巨漢ベーシスト、ジェイムス・マクニューの弁(以下同)。ソロ活動ではダンプとしても知られる優しい人だ。〈人としての自然なリアクション〉。それが何へのリアクションかは、彼らが昨年、サン・ラーのカヴァーEP“Nuclear War”(傑作!)をリリースしたことからも予想できる。

「今のアメリカにも政府に反対する人がたくさんいるのは確かなんだよ。それをほかの国の人たちにも知って欲しい。今はとにかく不穏な時期で不満に思うことも多いよ。ただ、少なくともより多くの人が自分たちの意見を表明することの大切さに気付き始めたのはいいことだと思ってる」。

そして、タイトル『Summer Sun』には不似合いなジャケットの写真。そこは砂浜、とはいえ、ヨ・ラ・テンゴの3人は厚ぼったい外套にくるまっている。その勘ぐりはしかし、ジェイムスの前では微笑みに変わってしまう。

「個人的には冬のほうが好きなんだよね。ただ、僕がこのアルバムからイメージする景色が2つあるんだ。去年の夏に僕らは大きなフェスティヴァルでプレイした。ブルックリンの公園で、金曜の夜のフリー・コンサートだった。1万2千人くらいの人が観に来たんだ。信じられないほど素晴らしかったよ。あのコンサートは一生忘れないだろうな。去年の夏のもっともエキサイティングな出来事だったし、しかもちょうどこのアルバム用に曲を書いていた時期だったんだ。その時の興奮がひと夏中続いていたんだよ。暖かくてとにかく綺麗な、特別な夏の夜だった。それからもうひとつは、新作のジャケット写真を撮りに行った時のこと。クリスマス直後のニュージャージーでね。めちゃくちゃ寒くてさ。凍えちゃったよ」。

と、彼は自分の居住まいを何か違う風に見せかけることは決してしないのだった。また〈All Music Guide〉というウェブサイトでは、彼らはこんなふうに紹介されている。〈ヨ・ラ・テンゴは、いっしょに年を重ねるには完璧なバンドだ〉って。それは確かに言える。

「僕自身いろいろなバンドといっしょに年をとったからね。10代の頃に比べるとヘヴィーメタルは聴かなくなったけど、いまでもモーターヘッドをどこかで聴けば笑顔になっちゃうし、シン・リジィがかかるとつい口ずさんじゃう。だから、そんな風にいってもらえるのは嬉しいよ、すごく良い誉め言葉だから。年をとるのも悪くないもんだよ、僕らがその手助けになれるんだったら喜んで手伝うさ」。

さて、ヨ・ラ・テンゴがいてくれて本当に良かった。心からそう思わない?

▼ヨ・ラ・テンゴの作品を紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年03月27日 17:00

ソース: 『bounce』 241号(2003/3/25)

文/福田 教雄