50 Cent
偽ギャングスタを叩く“Wanksta”でシーンの表舞台に帰還し、今年に入って“In Da Club”がバカ売れ中、ファースト・アルバム『Get Rich Or Die Tryin'』は全米チャートで予想どおりの初登場1位を記録したばかり……と、まさにこの世の春を迎えているのが50セントだ。とはいえ、春の前には冬があったわけで、かつての彼はその音楽以上に〈問題児〉として知られていた。
少年時代より犯罪歴のリストを更新し続けた末にMCの道を選んだ50セントは、99年にシングル“How To Rob”で一度はメジャー・デビューしている。同曲は、成功しているラッパー/R&Bシンガーらの名前や曲名やフレーズを延々と引用し(盗み)ながら、〈その地位を俺によこせ〉とばかりに略奪を計る、一種のノヴェルティー・ソングだった……はずなのだが、複数のMCたちが不快感を露わにし、50セントの名はトラブルメイカーとして広まるようになった。
「“How To Rob”は個人的な内容じゃなかったけど、真実に基づいたコメディーだったからおもしろい内容になっただけだ」。
いまでこそそう述懐する50セントだが、2000年の4月にNYのヒット・ファクトリー・スタジオで起こった刺傷事件は笑い話では済まない。“How To Rob”に怒ったジャ・ルール関係者による犯行だとも囁かれ、刺された50セントはいったんMC生命を絶たれたのだから。
「事件があって電話がパタッと鳴らなくなったんだ。みんなの態度が前と違うんだよ。厄介事を恐れて、〈手を引くことにするよ〉ってさ。それで自分でマーケティングしなきゃならなくなったんだ」。
ストリートに戻った彼は、膨大なミックステープに登場し、編集盤『Guess Who's Back』や、有名曲のビートをジャックしたブートレッグのレコードをリリースし続ける。それらを耳にしたエミネムのオファーを受けて、2002年にシェイディ/アフターマスと契約。そして前述の“Wanksta”がヒットし、エミネムが「オレの最初のアルバムもこんな出来栄えだったら良かったのにな」と嫉妬(?)するほどの『Get Rich Or Die Tryin'』へと至ったわけだ。
エミネムとドクター・ドレーが総監督を務めた同作には、エミネム一派や50セント自身のクルー=G・ユニットらが参加。生々しい語り口を前面に押し出した好曲が並ぶなか、ドレー制作曲のフロア映えするループと50セントの粘っこいフロウの相性の良さ、中毒性の高さはやはり群を抜く。
「ドレーと初めていっしょにレコーディングしたのは“Back Down”さ。曲が気に入ったからやってみたんだけど、最終的に凄くクールなものになったな」。
同じくドレーによる前述の“In Da Club”では〈2パックと同じくらいみんなに愛されたい〉ともライムしている50セントは、NYが久々に生んだスターとしてナズやビギー以来とも言われる熱狂的な支持を集めている。そんな彼を敵に回したくないのか、舌戦を繰り広げてきたはずのジャ・ルールさえも抗争の終結をアピールしているが、50セントは余裕綽々でこう語る。
「曲のなかでジャについて話したのは、ヤツがポップ・アーティストだからさ。この件はいますぐ握りつぶすことだってできるだろうよ。でも、ヤツが望むなら、個人的には応えてやるつもりだ。昔のことはなかったことにして、フェアにいこうぜ」。
そうでなくても、ミッシー・エリオットやジャスティン・ティンバーレイク、リル・キム……と旬の作品に旬のラップを刻み込みまくっていることもあって、春を過ぎても50セントのアツい夏は続きそうだ。最後にドクター・ドレーの言葉を引用しておこう。
「50のアルバムは過去10年間に作られたすべてのヒップホップ・クラシック――ナズの『Illmatic』、オレの『The Chronic』、エムの『The Marshall Mathers LP』なんかと同じ土俵で戦うアルバムだと思うよ。大袈裟に言ってるんじゃないぜ」。
それは、この後の歴史が証明してくれるに違いない。
PROFILE
50セント
NYはクィーンズ出身。幼い頃に身寄りを亡くし、少年時代にはハスラー稼業で生計を立てていた。90年代半ばにランDMCのジャム・マスター・ジェイに見い出され、彼のレーベル=JMJと契約。99年には新たにトラック・マスターズと契約し、シングル“How To Rob”でデビューするが、やがて契約を解除される。2002年には客演曲やフリースタイルを集めたアルバム『Guess Who's Back?』をリリース、その後エミネムにフックアップされ、シングル“Wanksta”のヒットで華々しく再登場を飾る。続くシングル“In Da Club”もヒットを記録するなか、オリジナル・ファースト・アルバム『Get Rich Or Die Tryin'』(Shady/Aftermath/Interscope/ユニバーサル)がリリースされたばかり。