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インタビュー

フレックス・ライフ

 ジル・スコットなどのフィラデルフィア系シンガーや、ピーナッツ・バター・ウルフなどのジャジーなヒップホップ・アーティストたちとも共鳴する、現在進行形のプロダクション。そして70年代のシンガー・ソングライター的ともいえる内面への視点を備えたソングライティングとの融合――というと乱暴すぎるかもしれないが、とにかく、ダークな清々しさというものがあり得るのなら、flex lifeのファースト・フル・アルバム『黒い秘密』は、そんな形容をしたい作品だ。

「メンバーが2人になって最初の作品だったので、2人でどういうことをしていくかを確認し合いつつ、同時進行でアルバムを作っていったことが生みの苦しみではあったところです」(大倉健)。

 2002年にリリースされた岡村靖幸トリビュート・アルバム『どんなものでも君にかないやしない』でのパフォーマンスは、同アルバムに収められた素晴らしい楽曲群のなかでもひときわ出色だったが、その企画への参加は、可逆的に自分たちの音楽への姿勢を確認するための契機になったという。

「今回のアルバムで自分に課したのは、ポロッと出てきちゃった歌詞を、恥ずかしいけど推敲せずにそのまま歌ってみようと。それこそが核心をついてたり、無意識だけど本当に思ってることが出ちゃった瞬間なのかなと思って」(青木里枝)。

 アルバムはエキゾティックなヴィブラフォンの音色をフィーチャーしたタイトル曲のみならず、ホーン・セクションを随えた“獅子座の唄”の張りつめた空気や、エロティックな感触を残す“獣の時間”など、彼らのイマジネイティヴな世界が花開いている。

「アルバム用の曲が揃ってみると、〈闇〉について歌ってることがすごく多くて。“黒い秘密”というのは、自分のなかの見たくない部分や、人には触れてほしくない部分について歌った曲なんですけれど、それを一回外に出したり、自分で見てみることによって、もうひとつ上の段階にいけるんじゃないかと。だから一見ネガティヴな感じなんですけれど、自分のなかではポジティヴな行為だったんです」(青木)。

 ムダが削ぎ落とされたトラックメイキングはより太さを増し、浮遊感を漂わせるヴォーカル・アレンジメントは青木の斬新なメロディー・フロウをさらに強調する。さらに、ソウル・ミュージックのクールな一面を培養し、個人の内的風景をさらけ出しているという意味で今作は、プリンスやカーティス・メイフィールドにも通じる感触を持っているとも言える。

「青木はもともと写真や映画といった〈映像〉が好きなので、ジャケットも含めたヴィジュアル全部を考えることができるんですけど、今回は、より自分の〈画〉の世界を音で表現するための意見を出すようになってきましたね」(大倉)。

「たとえば、レゲエやR&Bといったフォーマットのなかでは違和感のある音でも、歌詞の世界観やメンタルの面で合っていれば〈こういうフレーズも入れたい〉と言えるようになって、それは収穫でした。それから、曲が優しかったりすると、ちょっと生々しい言葉を乗せたくなったり、曲が元気よかったら、柔らかい言葉にしてみたり」(青木)。

 そうしたバランス感覚と関係性の緩やかな変化は、バンドが手探りの状態から抜け出せたという実感も含めて、ふたりのなかでいま感じていることの表れなのだろう。変わりゆく世界のなかでじっとみずからを見つめる気持ちをバックビートに乗せたラストの“しずかに”は、彼らの心境を素直に歌にしているかのように響く。

「『黒い秘密』は、過去の作品と同じテーマで歌っているとは思うんですけれど、結果的に光が射すところに行きたいなって……ただ〈闇を観て光を知る〉というような表現をとっているところがいままでとは違うんです」(青木)。

 細分化していく音楽のジャンルに左右されず、どれだけ切実さと説得力をもって自分の〈画〉を作品にできるか――『黒い秘密』は全体としてとても穏やかなアルバムだ。しかし、いやだからこそ、このアルバムを聴いた人はこの体験をずっと胸に刻み付けていくことだろう。

PROFILE

flex life
大倉健(ベース/ギター/プログラミング)を中心に、当初は男子4人組のグループとして98年に結成。99年に青木里枝(ヴォーカル)らが加入して6人組となり、2000年8月にシングル“あり*なし”、9月にミニ・アルバム『SOUL BUS』をインディーよりリリース。ソウルフルな味わいを持ったポップなサウンドが注目を集める。その後、2001年7月にミニ・アルバム『MEDITATION』をリリースし、2002年1月のミニ・アルバム『それいゆ』でメジャー・デビュー。7月にシングル“蜜蜂”を発表したのち、現在の2人組となる。今年2月にリリースされたシングル“寝ても醒めても”に続き、このたび待望のファースト・フル・アルバム『黒い秘密』(zetima)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年04月10日 11:00

更新: 2003年04月14日 22:33

ソース: 『bounce』 241号(2003/3/25)

文/駒井 憲嗣

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