インタビュー

一十三十一

異国を巡って紡がれた、シンガー・ソングライターのファースト・アルバム『360゚』完成!!


〈名前は自分でつけたんですか?〉の問いに、「キラッとしてるでしょ(笑)。シンメトリーになっているし、曼陀羅みたいで。すごく単純なもののなかに〈これ何だろ?〉って一瞬、でも確実に引きつけるスパイスみたいな……たとえばオノ・ヨーコのアートのような、バランスのとれた刺激。閃きをそのまま名前にしたんです」と語る彼女――一十三十一(ヒトミトイ)。始発点となったファースト・シングル“煙色の恋人達”ではアレンジャーにJazztronikこと野崎良太を迎え、その後2枚のシングルをリリース。ごく自然に、〈ソウル〉を感じさせる、一言でいえば〈心地良さ〉そのものの魅力が宿されたこの3作を聴けば、〈奇を衒った〉という名前から受ける第一印象は完全に打ち消されるだろう。その3作同様、このたび完成したファースト・アルバム『360゚』でも、「高校のころからお兄ちゃんといっしょに始めた」というソングライティングのセンスを光らせたオリジナルの世界観を展開している。

「小さいころから〈書く〉ことが好きで。作曲は高校に入ってからですね。お兄ちゃんが自宅に作ったスタジオで、打ち込みやセッションを始めたんです。スタジオといっても大した代物ではなくて、お手製の楽器(?)みたいなのがゴロゴロしてる、アットホームな創造の場。そのころ作った楽曲に手を加えたものや、いままで綴ってきた、詞にもなってない言葉たちをもとにアルバムを作ったんです。ファースト・アルバムにしては18曲って多いでしょ。どれくらいかかったの?って訊かれたらやっぱり、24年ってことに……私が生きてきた24年。最初のアルバムは、私の感じた〈すべて〉を詰め込まなきゃって思ったので」。
〈ようこそ、360゚、リズムにずぶ濡れる旅へ〉と歌われるアルバムのオープニング・ナンバー“いなずま”からはじまり、汽車のなかへ、静かな夜の海へ、どしゃぶりの雨のなかから気づけばバスルームへと、『360゚』が連れ出す〈旅先〉は目眩く回転する。独り長途に向かっているような……でもやっぱり、恋人のそばにいるような。そんなことを鮮明に描かせる彼女の詞世界。24年、その〈すべて〉とは?

「私のルーツは家族なんですよ。幼いころから両親といろんな旅に出ていろんな刺激を受けたこと、その旅から戻った時に初めて気づいた日本人のスピリット。音楽においても、ロックやジャズだけじゃなくて、ワールド・ミュージックから山下達郎まで、いつもそばに音楽がある環境だったし。そこから得たエネルギーの大きさって計り知れないもので……たとえば目で見える世界は180゚。でも瞳を閉じたらそこはいつでも〈360゚〉の世界なんですよ。もっと自由に、頭と体が音や言葉とリンク/シンクロできて、それぞれの旅に飛んでいけたらいいなーと思うから。でも飛んだら着地するもので、きれいな円(まる)を描くように、曲の配置もすごく慎重に考えて決めたんです」。

 発言だけを聞くと、少々難解なイメージを受けるかもしれない。けれど「路線を引かないというスタイル、大陸的な繋がりをイメージして」完成された本作は、東南アジアから欧米諸国まで、あらゆる人種とのコミュニケーションや文化の違い、民族楽器による民族音楽をその土地でリアルに感じてきた一十三十一の〈すべて〉がある。「音楽は〈感じるため〉にあるんだから……本気の表現でないとね、ココには届かないでしょ?」と言いながら、軽く胸を叩いて見せる彼女から、今後も目が離せなさそうだ。

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掲載: 2003年04月17日 15:00

更新: 2003年05月01日 18:56

ソース: 『bounce』 241号(2003/3/25)

文/立野 幸恵