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インタビュー

51-GOICHI-


 MIC BANDITZから51 -GOICHI-がソロ・デビューを果たした。日英2か国語を操るバイリンガル・ラッパーとしても知られる彼は、現在19歳にして海外生活14年。音楽好きの家族の影響でボブ・マーリーやモーツァルトを耳にするなど、普通に音楽が周りにある環境で育ったという。イギリスで生活していたというと、いわゆる裕福な帰国子女の姿をイメージしてしまいがちだが、GOICHIの場合はちょっと事情が異なる。人類学者の父親がイギリスで論文を書いていたのだが、その間は無収入で「収入ゼロだからギリギリで暮らしてて。家とかボロボロで、TVにはスイッチもなかった(笑)」という生活だった。そんな環境のなかで彼がマイクを握った理由は実にわかりやすく、「ビッグになりたかった。ラップで金を稼いでラージな暮らしをしたい、みたいな(笑)」というのは納得のいく話だ。

 実際にマイクを握ったのは10歳で、「11、12歳くらいでリリックを書き出して。〈これでスターになってやる〉みたいなノリで(笑)」始めたという。だが、定期的にクラブでマイクを握り始めたのは帰国してからで、その後にMIC BANDITZとして世に出たのはすでにご存知のとおり。帰国当初は英語オンリーでラップしようと思っていたが、伝えたいこともあり日本語でやることの必要性も理解して試行錯誤していたという。現在は「両方の良さがわかってきた。日本語だけ、英語だけでしか表現できないものがあって、そういうのがだんだんわかってきた」と語る。また、バイリンガル・ラップに対する批判についても「〈日本人なのに英語使ってんの?〉とか、そういうとこはよくわからないですね。お前と育ってきた環境が違うじゃん、みたいな。そんなこと言ってるんだったら、なんでアメリカの格好してるんだ、ヒップホップ自体をやってるんだよ、って思うんですよね」と反論する。

 そんなGOICHIのめざす音楽は?

「あたりまえのことなんですけど、音楽としてかっこいいものが中心。一般向けっていう意味じゃなくて、音楽として誰でも楽しめる、音を聴いたら〈コレおもしろいね〉って思われるものを作りたいと思うんです。コアなリスナーも当然ついてくるけど、ヒップホップを聴かない人にもおもしろいって言われるものを作っていきたい」。

 今回の『51st DIMENSION : THE YING』ではすべてのトラックを自作。童謡や祭ばやしを用いたりしてオリエンタルな雰囲気を漂わせる独特の仕上がりについてはこう語る。

「普通のトラックは嫌だし、おもしろいヒネリは入れたいっていう気持ちがいつもあって。“とおりゃんせ”なんか全然知らなかったけど、横断歩道で鳴る曲を聴いて、友達に〈これ何?〉って訊いて、すぐに家に帰って使いましたね(笑)。なんかグッとくるんですよ、盆踊りのCDとか聴くと。〈コレいいなあ〉ってホントに思うんですよ(笑)。やっぱ日本人だし、たとえばティンバランドが同じ盆踊りの音を聴いたとしても違う音になると思うんですね。また、日本にずっと住んでる人が同じように作る音とも違うと思うし、俺はちょうどその真ん中っていうか。日本の文化を内側からも見れるし外からも見れる、みたいな」。

「今回のアルバムは勢いでやって、ノリのアルバムとして考えてほしいんですよね。今回が〈THE YING〉で次に〈THE YANG〉が出るんですけど、それはもっと〈余裕を持ったGOICHI〉みたいな感じでやろうかなって。今回はまだ半分だけ、もっとあるよ、みたいな」。

 日本の音楽シーンにストレスを感じているというGOICHIだが、本当の意味で彼の作品に訴求力があるとすれば、その思いも次第に解消されていくはずだろう。彼のすべてを判断するのは次作を待ってからでも遅くはなさそうだ。

PROFILE

51 -GOICHI-
83年生まれ。4歳から16歳まで南ロンドン(途中1年ほどナイロビ)に在住し、多文化が入り乱れる環境で育つ。ヒップホップやドラムンベース、UKガラージ、レゲエなどに親しみ、11歳の頃からラップを始める。帰国後は日本語でリリックを書きはじめ、〈FAMILY〉のイヴェントなどを中心に活動を開始、同時にトラックメイキングも始めている。2001年にTV番組のオーディション出演をきっかけにVERBAL(m-flo)と知り合い、彼が率いるMIC BANDITZの一員として2002年にデビュー。2003年3月にシングル“EARZ on FIRE”でソロ・デビューを果たす。このたび、ファースト・ミニ・アルバム『51st DIMENSION : THE YING』(ORGANON/ワーナー)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年05月01日 11:00

更新: 2003年05月01日 18:50

ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)

文/高橋 荒太郎