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インタビュー

琉球アンダーグラウンド


〈沖縄〉という場所には音楽を愛するさまざまな人々――リスナーだけでなくミュージシャンも同じように――を惹き付ける魅力がある。で、琉球アンダーグラウンドの二人、沖縄在住のキース・ゴードンとアメリカ在住のジョン・テイラーはとりわけ重度の沖縄中毒患者でして、そんな彼らが昨年リリースしたデビュー・アルバム『琉球アンダーグラウンド』はぶっといブレイクビーツ/ダブに乗せてサンプリングされた沖縄民謡が揺らめくという、ふたりの沖縄民謡に対する軽やかな(だが誠実な)スタンスが形になった一枚だった。そして、このたびリリースされるニュー・アルバム『Mo Ashibi ~毛遊び~』はというと……。

「僕らと同じような考え方を持った若い三線プレイヤーとゼロから音楽制作をしてみたいという考えが昔からあった。その若いプレイヤーのなかでも僕らが以前からコラボレートしてみたかったのがミカ(内里美香)だったんだ。とにかく僕は彼女のアルバム(2002年に発表された『たびだち』)をよく聴いていたし、豊かでカラフルな彼女の歌声に惹かれていたからね」(キース・ゴードン:以下同)。

 というわけで、ふたりからのラヴコールを受けて今回フィーチャーされたのが南大東島出身の唄者、内里美香(現在23歳!)。先行シングル“Hana”(もちろん、喜納昌吉による“花 ~すべての人の心に花を”のカヴァー)でもエモーショナルな歌声を披露していた彼女が今作に与えた〈匂い〉は、キースたちがかねてから熱望していたものだった。つまり、沖縄民謡をサンプリングしてその〈匂い〉を作りだしていた前作と比べると、沖縄のアーティストによる生演奏とサンプリングを併用した今作は二人にとって理想としていたヴィジョンに近づいたものとなったわけだ。また、「すごく濃い民謡の世界に生きてきたミカが、今回僕らのアルバムに参加して〈民謡もこういう風にできるんだ!〉って思ってくれたみたい」というキースの言葉からもわかるように、両者にとってこのコラボレーションは実りあるものになったようだ。

「(アルバム・タイトル曲の)“Mo Ashibi”を作り終えたとき、〈まだなにかが足りないな〉って思ってたんだ。で、ミカに〈ちょっとスタジオに入って叫んでくれない?〉って言った。〈好きなようにやってよ〉ってね。始まってみたら僕とジョンは顔を見合わせて〈これだ!〉って(笑)。要するに彼女がやってみせたのはインプロヴィゼーション(即興演奏)だったわけだけど、沖縄の人にしてみればこんなことは毎日普通にやってるようなもんだからねぇ(笑)」。

 ちなみにキースは沖縄に住んで6年になるという。そのことを訊ねると「長いね(笑)。でも楽しいから長くは感じないな」との答えが。その歳月から得たものは確実に彼らの音楽に反映されている。

「僕らは特にプロだとかアマチュアだとかにはこだわっていないんだ。前作にはバスの運転手や僕のガールフレンドの友達なんかも参加してるし(笑)。そんな音楽の作り方はすごく楽しいし、それに沖縄の生活に音楽が息づいていることを体現するようなところもあるしね」。

 また、今作にはダブ、レゲエ、ボサノヴァ、アンビエント……と、前作以上にさまざまな音楽的エッセンスが溶けこんでいるところも重要ポイント。ちなみにジョンはレゲエ界の伝説、U・ロイのツアーにギタリストとして同行したこともあるという。

「確かに、よりオーガニックに作ろうと思っていたからそういうところが出てるかもね。“Kuijin No Hana”は元の歌がわからないぐらいにボサノヴァやサンバのカラーが出てるし。それに、ジョンがかなり腕の立つダブ・ミュージシャンだからダブのスタイルについて僕らは自信を持ってるんだ。いまはアフロ・ビートと沖縄民謡のフュージョン(融合)にトライしているし、つねに僕らは新しいものを求めているんだよ」。

 アフロ・ビートと沖縄民謡だって? まったく、クロスオーヴァーにもほどがある!……と言いたいところだけど、この二人の手にかかればそれも感動的な〈ニュー・オキナワン・ミュージック〉になっちゃうんだろうな。ともかく、沖縄に取り憑かれたふたりの破天荒なミュージシャンによって生み落とされたこのアルバムをまずは楽しませてもらいましょうか。

PROFILE

琉球アンダーグラウンド
DJ/リミキサーとして活動してきた沖縄・宜野湾在住のイギリス人、キース・ゴードンと、さまざまなミュージシャンのバックを務めてきたアメリカ在住のジョン・テイラーによって98年に沖縄で結成される。2001年にはTHE BOOMの宮沢和史のソロ・アルバム『MIYAZAWA』に収録された“ちむぐり唄者”のリミックスを手掛けて注目を集めるなか、3年間にもおよぶ制作期間を経て2002年3月にファースト・アルバム『琉球アンダーグラウンド』をリリース。沖縄民謡とブレイクビーツをミックスさせたユニークなサウンドが大きな話題となる。新作への期待が高まるなか、このたびニュー・アルバム『Mo Ashibi ~毛遊び~』(リスペクト)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年05月22日 12:00

更新: 2003年05月22日 17:37

ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)

文/大石 ハジメ