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インタビュー

林明日香


〈平成生まれの歌姫〉ということで、ニュース系メディアでも盛んにその名が挙げられていたから、ご存知の方もきっと多いだろう。今年の1月にシングル“ake-kaze”で、まごうことなき鳴り物入りのデビューを果たした林明日香が初のアルバムとなる『咲』をリリースした。その“ake-kaze”、そしてセカンド・シングル“母”を含めた全12曲からなるこの作品。一聴して感じるのは、(散々言われ尽くしたことかもしれないけど)〈これがホントに13歳の歌声なのか??〉ということ。“ake-kaze”を初めて聴いたときにも全く同じようなインパクトを与えられていたし、すでに自分のなかに免疫ができているものと思っていたのだけれど、いやいや、どうして! その圧倒的な力量たるや、完全に認めざるをえませんです。はい。

とかく年齢が取り沙汰されることについて「たまたまデビューできたのが13歳だっただけで、それが20歳でもいくつでもスゴイことだと思っています」と本人は至ってフラットな様子だけれど、そこはかとない翳りを孕みつつも芯の太さを感じさせるヴォーカルは、早くも今後が気になって仕方がない。

 物心ついたときからすでに〈将来自分は歌手になるのだ〉となんの迷いもなく思っていたという彼女。そんなどこにでもいそうなひとりの女の子がデビューへのきっかけを掴んだのは一本のデモテープだった。「ピアノの先生に、歌を歌ううえで必要であろうと思われるピアノのコードを教えてもらったりしながら、自分に合う、自分らしいやり方を探そうと思っていました」という11歳当時のこと。その後の、本作に至るまでの活躍はご存知のとおりだ。

 さて。肝心のアルバムに話を戻そう。先に彼女の歌唱力には心底圧倒されると書いたが、作品全体を包み込むなんとも〈和〉な空気感は、郷愁にも似た深い感慨をもたらしてくれることだろう。“母”で作詞を担当したグ・スーヨン(CM制作業界の奇才。作家でもある)をはじめとした作家陣が織りなすその詞世界は、どことなく〈わらべうた〉を思わせる寂寥の念を湛えているし、ひとつひとつの言葉を慈しむように歌う林のヴォーカルは、まるで祈りにも似た慈愛をもって、耳のなかへとゆっくりと心地良く浸透してくる。

「どれだけ作品を自分のものにして歌えるか?ということについては、作詞家さんほかといろいろ話したりして、その世界を理解して歌えたと思います。このアルバムには英語が一切使われていないんですけれど、日本語ってきれいな言葉やなぁと思うし、日本の美しい風景を意識したりとかはしましたね」。

 ストリングスと生楽器を多用した(かと言ってそれだけに留まらない)サウンドも、見事なまでに〈懐かしいのに、新しい〉デジャヴのような音像を作り上げることに成功している。『咲』がわれわれに喚起するのは誰しもが胸の奥にひっそりと抱え込んでいる、そして、日々生活を営みながら見失ってしまっている〈心の原風景〉のようなものなのかもしれない。『咲』というアルバム・タイトルについて彼女はこう語る。

「神田サオリさんという明日香のジャケットを描いてくれている人がいるんですけど、サオリさんが〈明日香の歌を聴くと花が咲いていくイメージがある〉といって、花を描くようになって。それと中国語で〈笑う〉っていう意味もあって。明日香のイメージにピッタリやなぁと思って付けました」。

「明日香も感動することが大好きなんで、明日香の歌を聴いて感動してもらったりできるように気持ちを込めて、一人一人に届くようにこれからも歌いたいと思います」と、その胸の内をストレートに言葉にする林明日香13歳。その真っ白なキャンバスに、これからどのような色を塗りたくってくれるのか、大いにワクワクすることとしたい。

PROFILE

林明日香
大阪出身の13歳。2001年春、当時の林明日香のピアノ講師が送ったデモテープが現在のプロデューサーの耳にとまり、デビューのきっかけを掴む。2002年7月からCMソングとしてオンエアされ、問い合わせが殺到していたという“ake-kaze”が、2003年1月にファースト・シングルとしてリリース。EMIアジアのスタッフが注目し、台湾でも“ake-kaze”が同時リリースされるなど、TV、ラジオをはじめ大きな反響を集める。その存在感をより強めた3月にリリースされたセカンド・シングル“母”に続いて、このたびファースト・アルバム『咲』(東芝EMI)がリリースされたばかり。なお、初回限定盤のみ“ake-kaze”のアコースティック・ヴァージョンを収録。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年05月29日 15:00

更新: 2003年05月29日 17:35

ソース: 『bounce』 243号(2003/5/25)

文/由田 貴久

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