インタビュー

Nathalie Wise

成熟とは無縁の大人の音楽──BIKKEを中心としたユニットが放つファースト・アルバム!!


 TOKYO No.1 SOUL SETのBIKKE、アンビエント・ソロ・ユニット、undercurrentで活動する斉藤哲也、そして高野寛という3人によるNathalie Wiseのサウンドは極めて映像的だ。ファースト・フル・アルバム『film, silence』が描く世界観は、日常で忘れかけていた感情をふと思い出させてくれる。

「ソウルセットでは自分が思うことをただ書けばいいと思ってたのですが、Nathalie Wiseで詞を書く時では、ちゃんと読んでくれた人とわかりあえるものにしたい、そういうことは意識してはいるんですね」(BIKKE:以下同)。

 BIKKEのライミングに加え、今作では“真昼の誓い”“美しい夜”で坂本美雨をヴォーカルに、そして“風越し”では小泉今日子をスポークンワーズに迎えて、風景のヴァリエーションを拡げている。

「人と人の間の表現として〈風越し〉という言葉が浮かんできたんです。風は吹かせればなにかが変わる恐れがあるし、時折自分が吹かせることで受け身ではないほうにまわることもできる。自分が身体を動かせば、無風のところにも風が吹いているような状態に持っていける。〈風〉は僕にとっていろいろな使い方ができるキーワードなんですよ」。

 ビートさえ削ぎ落とされ、ギター、ピアノ、弦楽器といった極めてシンプルな構成で奏でられる音世界は、穏やかで淡々としていながら、湧き上がるエモーショナルな昂ぶりも随所に顔を覗かせる。

「生楽器がメインなので、特にライヴだと弾き方とかで曲の醸し出す雰囲気にテンションが出てくるから。常にその時の気持ちに従って変化していければいいなぁと思ってるんです」。

 アートフォームにおける瞬発力、またはやろうと思い巡らす瞬間の力学──Nathalie Wiseは大人の音楽という形容が相応しいが、それは決して成熟とか完成形とは無縁だ。常に現在進行形であることを怖がらないこと。TOKYO No.1 SOUL SETがある種日本におけるクラブ・カルチャーを理想的に体現してきたとしたら、これからNathalie Wiseがいかなる展開をしていくのか興味は尽きない。そしてすでに彼らのなかでそれは芽生えつつあるようだ。

「なんてったってNathalie Wiseを始めようと言ったのは僕なんでね。僕はいろんなことを考えてますよ(笑)」。

▼『film, silence』に参加したアーティストの作品を紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年06月05日 15:00

更新: 2003年06月05日 18:46

ソース: 『bounce』 243号(2003/5/25)

文/駒井 憲嗣