インタビュー

Joyce

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ブラジルのミューズが放つ麗しき傑作──豪華メンバーが集った、その名も『Bossa Duets』!!


 MPB(エミ・ペー・ベー=ブラジルのポピュラー・ミュージック)のミューズ、ジョイスは60年代から現在までシンガー・ソングライター/ギタリストとしてブラジル音楽の歴史を駆け抜けてきた。今回リリースされたニュー・アルバム『Bossa Duets』はそんな彼女の人生を象徴するようなボサノヴァ・アルバムに仕上がっており、先達にあたるジョニー・アルフとワンダ・サー、ジョアン・ドナート(ボサノヴァ世代)、盟友で名ギタリストのトニーニョ・オルタ(MPB世代)、ジョイス自身の娘であるアナ・マルチンス(新世代)と3世代に渡るアーティストが参加している。

「録音はリオのコパカバーナにあるスタジオで行ったの。5日間かけて録音して、ミックスダウンを含めたら制作期間は10日間ほどね。今回のゲストはこれまで来日公演をしたときに共演した人たちから選んでいるんだけど、彼らはとてもクリエイティヴでなにもかもスムースだった。シンプルな作り方だったけど、本当に親しい仲間とやりたいことができてハッピーよ。それがアルバムにも反映されていると思う。それと、日本の人たちに彼らを紹介できる良い機会だと思ってこの作品を作ったところもあったわね」。

 確かにこのアルバムからは、彼女とメンバーとの心の交流が伝わってくるよう。だからこそ聴いているほうもリラックスできるのだ。ちなみに、ボサノヴァ定番曲のカヴァーも多く収録されている今作は実に親しみやすい内容になっているのだが、いまや日本ではボサノヴァが〈和み〉のキーワードになりつつある状況に対して、彼女はどう考えているのだろうか。

「ボサノヴァがラウンジ・ミュージックとして好まれていることについては素直に嬉しいわ。でも、それだけがブラジル音楽じゃない。『Bossa Duets』がスタンダードで古典的なアルバムであるのに対して、今度イギリスから出るアルバムでは、ボサノヴァ以外のたくさんの種類のリズムや音楽を採り入れているの」。

 彼女が語っているように、ほぼ同時期にイギリスのレーベル、ファー・アウトからリリースされた『Just A Little Bit Crazy』ではサンバや北東部の豊潤なリズムを採り入れている。伝説的パーカッショニストのホベルチーニョ・シルヴァや北欧ジャズ・シーンの重要レーベル、ジャズランドを主宰するブッゲ・ヴェッセルトフトがキーボードなどで参加し、伝統と革新の狭間で自分なりのスタイルを確立してきた彼女らしい世界を作り上げている。このように彼女がひとつのレーベルに留まらずに作品を発表し続けているのも、みずからを束縛しない彼女なりの術なのかもしれない。

「ブラジルでは〈売れる音楽を作れ〉というプレッシャーがとても強いけど、私はマーケティングには興味がないの。だって自分の仕事は音楽に尽くすことであって、音楽に尽くされることではないから」。

 彼女の音楽との対峙の仕方はシンプルで妥協がない。きっと、彼女がいまも若々しく輝いていられるのは自分に対して正直に生きてきた結果なのだろう。最後に彼女なりの人生を楽しむ秘訣を訊いてみた。

「私の人生が充実しているのは音楽のおかげだけど、すべての人が音楽家やアーティストになれるわけじゃない。それでも誰もができることとして大切なのは、自身のなかに平穏を見い出すことと、周囲の人たちとの間に平和を保つこと。私は人類が同じルーツから誕生したと信じていて、人種や文化や習慣の違いは本当に表面的なことだと思っている。音楽には世界の人々に幸せなひとときや楽しみをもたらす役割があると信じているの。だから、私はいつもサインをするときに〈平和と愛〉という言葉を書くのよ」。

▼『Bossa Duets』に参加したアーティストの代表作を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年07月03日 13:00

更新: 2003年07月03日 18:32

ソース: 『bounce』 244号(2003/6/25)

文/長屋 美保