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インタビュー

インディヴィジュアル・オーケストラ


 田中フミヤはこれまでの決して短いとはいえないキャリアのなかで、常に未知の〈音〉を紡ぎ続けてきた。KARAFUTOやHOODRUMなどの名義での作品制作、そして精力的なDJ活動のなかでもそのスタンスは等しく貫かれてきたわけだが、そんな彼のもうひとつの名義、それがINDIVIDUAL ORCHESTRAだ。98年の『KARAFUTO presents INDIVIDUAL ORCHESTRA』以来約5年ぶりとなる新作『music from a view』──この作品には、田中自身が「ドラムが入ってるんだけどビートレスなもの」と説明するとおり、とある街角のざわめきを収めたSEや、静謐感漂うピアノのシンプルなフレーズ、ねじれたギターのループやミニマルなドラムのビートなどが散りばめられ、独特のフォルムを形作っている。卓越したプレイヤーたちとのセッションを再構築して独自のグルーヴを生み出していた前作とは異なり、この作品は驚くほど静かで、そして穏やかだ(そう、それは浜辺に佇む田中の写真のように)。

「今回、モチーフにした景色や自然の写真があって、そこから音楽を作りはじめたんです。ツアーでいろんなところに行ったときの写真とか、海に行ったときの写真とか、家のベランダから見えた写真とか。渋谷のド真ん中の写真というよりは、もっと緑があって、空もごっつ青くて……っていう写真が多かったんですよ。夜の写真もなくて、基本的に天気がいい昼間で。〈もっと音化できることってほかにもあるんちゃうん?〉っていう意識が強かったんですよね。〈もっと聴いたことのない音楽が聴きたいなぁ〉とか、そういうものの総合した形として。だから、今回〈音楽を作ろう〉として作ってないんですよ」。

 自然を音化する──その言葉だけを捉えるとひどく難解な作品に思えてしまうかもしれないが、この作品の風通しの良さには難解さはない。そして、その〈風通しの良さ〉はこんなところにも秘訣のひとつがあるようだ。

「作ったメロディーを、近所で散歩しながらとか、海だとか山だとか、郊外の公園だったりとか、要するに外で聴いてみて、違和感があったら家に持って帰って作り直して……っていう作業を延々と繰り返してたんです。本とか読みながらラジカセで鳴らしておくんですよ。で、〈なんかうるさいなぁ〉とか思ったらアウト(笑)。〈なんか鳴っとったなぁ〉みたいなところで成立させていく感じで」。

 結果、この作品にはじっくりと抽出された音のエキスが15通り揃うことになった。田中がふと漏らした「強いメロディーと強いフレーズがあれば」というヴィジョンが驚くべき精度で(しかも誰もが試みなかった方法で)実現しているのである。だが、この作品はごくありふれた日常生活のリズムと同じビートを刻んでいる。だから、聴いているとなんとも居心地がいいのだ。

「(今作を作るのは)すごく楽しかったんですよ。生活のペースもすごく良かったし、DJの活動もストップしてこのアルバムを作るだけで。〈明日できることは明日したらええやろ〉って感じでね(笑)」。

 田中はこの作品で彼自身が自然に、そして楽しんで作品制作をすることができる方法を発見したのだろう。だから(何度も言うように)この作品は居心地がいい。最後にDJの現場について話が及ぶと田中はこう言った。

「オレ、自分のパーティーとかでDJやってて、調子ええときって自分でレコードをかけてるんじゃなくて、〈客にレコードをかけられてる〉って思うときがあるんですよ。気に入ったレコードがあってかけたいんやけど、勝手に次のレコードが決まってて、かけられへん感じというか。そういうときって楽しいんですよ。うまく言えへんけど……オレじゃなくなっていくんです。〈もうこの流れに乗っていくだけやな〉って」。

 鮮やかなアルバム・ジャケットに惹かれてこのアルバムを手に取ったとしたら、期待以上のカラフルな音の世界がそこに展開されていることを約束しよう。『music from a view』はそんなアルバムだ。

PROFILE

INDIVIDUAL ORCHESTRA
DJ/クリエイターとしてワールドワイドな活動を続けてきた田中フミヤのソロ・プロジェクト。98年に村上ポンタをはじめとするプレイヤーを迎えて制作された『KARAFUTO presents INDIVIDUAL ORCHESTRA』をリリースし、生楽器のセッションを再構築して築き上げられたそのサウンドは国内外から大きな注目を集める。2000年にはこのアルバムの延長上の世界を展開した12インチ・シングル“INDIVIDUAL ORCHESTRA”をリリース。その後、INDIVIDUAL ORCHESTRAという名義での主だった活動は影を潜めながらも、楽曲制作は継続。そして、数年の制作期間を経て、待望のニュー・アルバム『music from a view』(Revirth)を6月27日にリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年07月10日 12:00

更新: 2003年07月10日 15:53

ソース: 『bounce』 244号(2003/6/25)

文/大石 ハジメ