インタビュー

藤原大輔

phatでジャズの新たな扉を開いた藤原大輔が初ソロ作品で開くもうひとつの扉とは……?


「phatでは黒人音楽に触発された自分を出していたけど、この作品は風景を描くように作っていったんです」。

 言うまでもなくphatは、生の即興演奏とエレクトロニカ的スタジオワークが渾然一体となった圧巻のサウンドを聴かせてきた名インスト・ファンク・ユニットだったわけだが、先日活動を停止したこのグループのリーダーでサックス奏者の藤原大輔が初ソロ作『白と黒にある4つの色』を発表する。それが震撼するほどに美しい世界観を持つ作品なので驚いてしまった。核となるのは、サックスの藤原とピアノのミヤモト・タカナ、そしてパーカッションのトリヤマ・タケアキという、かつて藤原がバークリー音楽院在籍時に知り合った2人との即興演奏。透明な知性が溢れるピアノと陰影に富むパーカッションと組むことで、藤原もphatではあまり見せることのなかった端正なリリシズムを発揮している。と、これだけ書くとまるでECM周辺のユーロ・ジャズのようだが、そこに「phatで得たテクノロジーのノウハウを活かさない手はないと思い」実験的なスタジオ技術を、隠し味的なものも含めて随所で導入し、まさに映画音楽的な感触を持つ仕上がりになった。

「旧知の2人が僕の欲している水準以上のことをやってくれるから、ただ腕を組んで見てれば良かった(笑)。だから僕の役割はいわば映画監督的な感じだったんです」。

 今作が明確な美学に貫かれているのは、藤原と共同プロデュースで参加した高橋健太郎の時間をかけた丁寧なポスト・プロダクションの功績も大きい。だが、もうひとつの要因が冒頭で深みのある歌声を聴かせるPOCOPEN(さかな)も含む参加スタッフ全員が、藤原が触発されたという松本大洋のマンガ「GOGOモンスター」を読んでから録音に望んだこと。「聴き手に直接的な答えを与えるんじゃなくて、解釈を委ねるような音楽をめざした」と藤原は語るが、それってあのマンガに対する最高のトリビュートの仕方ではないだろうか。次回の松本マンガ映画化の際は、絶対彼にサントラを依頼するべきだ。

▼phatの作品を紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年07月17日 11:00

更新: 2003年07月17日 19:38

ソース: 『bounce』 244号(2003/6/25)

文/今村 健一