こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

The Miceteeth


 手前に置いてある雑誌の表紙に大仏のようなマディ・ウォーターズのお顔。「目に人生が出とるよな」と感心しつつ頷くドラムの金澤義と、「ヒゲが生えたらこんな感じにしたい」とぼそり呟くヴォーカルの次松大助。マディ御大に吸い込まれるようにして顔を寄せ合うこの2人は、関西のヤング・スカ集団、The Miceteeth(ザ・マイスティース)のメンバーである。このたび初のフル・アルバム『MEETING』をリリースする彼ら。青春丸かじりなハツラツとしたプレイと噴水のように沸き上がるロマンティックなムード、この両要素のやじろべえ的在り方が実によくって。「はい、ロマンティストですよ(笑)」(次松)、「夢見まくってるもんな。もちろん音楽に対してですよ! 日常は……結構幸せですけど(笑)」(金澤)と笑みをこぼす2人の表情そのものって感じのアルバムなのだ。

 なにせ11人の大所帯。音楽に注入される〈想い〉の質量もかなりのもの。それらが立ち騒いで駆け巡っては、祝祭のごとき空気を生み出す──これが〈マイス・スタイル〉。「メンバーそれぞれのバックボーン知らんまま集まって始めた」(金澤)という出発点から、ライヴやセッションを繰り返し、〈やっぱそうなんや!〉〈なるほどこうくるか!〉という経験を重ねながらここまで歩んできた彼らである。

「音楽って正直やないですか。この人がやるからこの音になる。おもしろいもんで、10人が大丈夫でも1人違ってたら音は濁ってしまうから、妥協が許されない。だから納得いくまで純度を上げていきたいというか。例えば自分の根っこにない要素を入れようとすると、必ずメンバーには伝わらないんですよ。すぐ〈ちょっとダサイ〉ってなる」(金澤)。

 しかし、軽やかなカリプソや渋い色のスウィングをプレイしてビシッと板についてるところなどは平均年齢が24歳だという事実を疑わせるほどで、根っこの太さはただものじゃない。意外なことに、「(古い音楽を)実はメンバーも僕もあんまり聴いてないんですよ」と金澤は言う。「アレちゃいますか、昔の人もその当時入ってきてた外国のリズムを〈こんなんあるんや!〉って聴いてた新鮮な感覚。そんな興味や好奇心は僕らもメッチャ近くて」(金澤)。

「無理してもバレますからね。そんなかっこいい音楽ばかり聴いて育ったわけじゃないし」と次松が付け加えた。

 The Miceteethは、よく〈ピーカン〉が似合うと言われるが、しっとりした雨の情感を醸す部分もあり、どこかしらインドア性の匂いも漂わせたりする。

「ひきこもってるわけじゃないですけど、どっちかいえば……やっぱインドアですね(笑)(小声で〈そやな〉と次松の相づち)。みんな憂いのある音楽が好きで。なんせ陰気なんですよ(笑)、僕らの音楽って11人の陰気な奴が集まって作ったメチャ明るい音楽っていうか(笑)。部屋の隅っこで考えていることがエグ過ぎるほど眩しい。突き詰めて、もう想像を超えるところまでいっちゃうんですよ」(金澤)。

「なんか、空見るのも窓越し(一同爆笑)」(次松)。

「だから〈Hey, men!〉って挨拶できるようなメチャ陽気な人に憧れるんですよ。僕らやったところでシャレにしかならない。そういう時はやっぱ〈おはようございますっ!〉で(笑)」(金澤)。

 自分たちの謙虚さについて熱っぽく語る2人であった。「相手にちゃんと謝らなきゃならないのに〈ゴメン〉って言えないような。アカンと思うけど、でもそのままにしといてもいいんちゃうかな、みたいな」と次松が話す内容は、彼のヴォーカル・スタイルそのまんま。彼らの音楽を聴いてると〈雨上がり〉を思い出す。雨と晴れが交差するところに生まれたかけがえのない音楽、だけにきらめきは一層増して目を潤す。水たまりに浮かぶ彼らが映し出すのは、いつもあの遠い空だ。

PROFILE

The Miceteeth
99年に大阪で結成。メンバーは、田中孝治(テナー・サックス)、田淵公人(サックス)、金澤義(ドラムス)、樋口嘉一(トロンボーン)、藤井学(キーボード)、次松大助(ヴォーカル)、和田拓(ベース)、森寺啓介(ギター)、吉田明生(ギター)、村岡建志(トランペット)、佐々木一右衛(トランペット)の総勢11人。2000年にファースト・7インチ・シングル“OLDMAN SILENCE”をリリース。2002年にリリースされた初のCD音源となるミニ・アルバム『CONSTANT MUSIC』や精力的なライヴ活動により、日本語詞による歌ものを中心としたその音楽性が全国的に話題となる。このたび、待望の初フル・アルバム『MEETING』(tentosen/Pヴァイン)が8月6日にリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年08月07日 12:00

更新: 2003年08月07日 18:17

ソース: 『bounce』 245号(2003/7/25)

文/桑原 シロー