インタビュー

スネオヘアー

新作『a watercolor』を引っ提げて、歩を進める彼の向かう先とは……!?


 先日電車を乗り過ごし、気がつくと多摩川あたりの景色を眺めていたことがあった。ヘッドフォンからは、何気ない優しさで気持ちを射抜かれるような、スネオヘアーのこのアルバムが流れていた。広い土手と、空に舞う鳥。夕暮れ時の河原を歩く女子中学生たちにも、背中を丸めてベンチに座るサラリーマンにも、きっと誰にでも〈こんな感じ〉あるだろうなあ。そう思った。

「〈日常〉や〈なんてことない瞬間〉を自分の目線、アングルで切り取っていきたい」――スネオヘアーから届けられる音楽の根底には、いつもそんな想いが貫かれ、軽快かつ骨の太いバンド・アンサンブルに、感情のメーターが振り切れていく瞬間をドライヴさせながら進む。さらに「より届かせたい方向で、ポップから逃げずに作りました」というのがセカンド・アルバム『a watercolor』である。

「もっと出していかなきゃ、言わなきゃわかんないよ、っていうのを今までのライヴで感じて。〈より外に向いて届けたい〉という気持ちになりましたね。だんだん照れがなくなってきて、言ったからには……という責任感や歌い手としての意識が出てきて。だから楽曲も何かの音が引っ張っていくのではなく、メロディーが引っ張って、その真ん中には歌がある。そういう束のようになればいいなと思って作ったアルバムなんです。メジャー・デビューして1年が過ぎて、特に僕はスネオヘアーという名前にしてもそうだし、トークや見せ方のギミック感みたいなところで、望んでた部分が意図としてない伝わり方もあったんで。やっぱりまずは真正面から向き合って、スネオヘアーの基礎をしっかり出していかないと。だからこそやっぱり伝わりやすい言葉とメロディーで、ポップから逃げない。いろんな音楽があるけど、それしか勝負できないんじゃないかなって客観的に自分を見て思ったんですよね」。

 よりアッパーに、よりメロディアスに、よりムーディーに。輪郭のハッキリした楽曲が豊富に取り揃えられ、いろんなスネオのワビサビに魅了されること間違いない。

「曲そのものが聴いた人の生活のなかに入り込んでいく、というのが理想ですね。音楽って記憶といっしょになってくことが多いじゃないですか。曲を聴いて何かを思い出すとか。そんなふうにスネオヘアーの楽曲も浸透して残っていけばいいな。それは素敵なことですよね」。

 良質ポップ真っ向勝負。たとえば過ぎ去ってゆく景色さえ大切に思えるような、そんな作品なのだ 。

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掲載: 2003年08月14日 17:00

更新: 2003年08月14日 19:22

ソース: 『bounce』 245号(2003/7/25)

文/上野 三樹