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インタビュー

BOO


「戦争みたいなもん、ワケわかんないじゃないですか。しかも、誰も止めることもできひんし、あんな無茶苦茶なことを。テロにしてもそうで、繊細で純粋な人には凄い衝撃やったと思うし、バッド・ヴァイブレーションが広がるのがよくわかったと思う。だから僕らは、ちっちゃなところからバッド・ヴァイブレーションが生まれてくるのと戦うんです。〈聖書を読みなさい〉とか、そういうことから始めるんじゃなく、音楽で楽しみつつ。それで上手いこといけばみんな幸せに暮らせると思うし、そういう精神でおれば、人間が超えていかなあかんレヴェルにも絶対達すると思っていて」。

〈音楽の真の目的は楽しむこと〉。そんな物言いは、いまの世の中の状況にあって、とても無邪気に聞こえるかもしれない。しかし、ここに登場するBOOは、アーティストとして無邪気な気持ちでそれを口にしているのではない。音楽に対する気持ちが強くて純粋だからこそ、その力にも自覚的だし、音楽を信じているからこそ、そう口にするのだ。キュビズム画家のジョルジュ・ブラックとパブロ・ピカソ。さらに、ブラック・ミュージックを好きで聴いてきたアフロ・アメリカンではない自分や、パフォーマンス・ピープル、パーティー・ピープルなど、さまざまな意味を重ね合わせたという『BLAQUE & P.P.』なるタイトルが付けられたミニ・アルバムが「最後はちゃんと着地するようになってる」のも、彼が音楽を単なる楽しみとして突き放すことなく、まっすぐに向かい、「思いを何重にも込めた」おかげだろう。

 本作はMURO主導で制作されたサンプリング・サウンドを前半に、初顔合わせとなる山下洋がリーダーシップを取る生楽器のサウンドを後半に、曲数をほぼ半分ずつ拮抗させつつ、ピーナツ・バター・ウルフによるリミックスなどを加えた内容から成っている。とりわけ後半に集められた楽曲は、K.O.D.P.の文脈でしか彼を知らない人にとっては意外なものかもしれないが、K.O.D. P.以前の大阪での活動を知る者にとっては無理のないものだ。

「K.O.D.P.(の一員)としてっていうのもあるけど、もっと自由であっていいとも凄く思っていて。昔からこういうノリやし、変な思想にとらわれないでいろんなものを見る、ある種子供の感性で、音楽が好きな人と旅をしたいんです」。

 ただ、そこには彼なりの取捨選択が当然のごとくある。この『BLAQUE & P.P.』もその結果生まれたものに他ならない。BOOのプロデュースによるイントロに始まり、彼の手によるアウトロで終わる構成はあたかも彼がひとつの映画を監督してるかのようだが(いわく「絵本やロード・ムーヴィーみたいなノリ」)、内容的に各楽曲は繋がっていないものの、それが統一した流れに見えるのは、彼が自分のスタンダードをしっかりと持っているからだろう。

「好きなもんは好きやし、嫌なもんは嫌やし。自分の感受性、感動するアンテナは自分で守ってあげんと」。

 そして彼は歌とラップで、音楽的なスタイルの先にあるキモを掴み取らんとする。何よりも「気持ち良くなってもらうこと」を前提に、誰にでも共有できる形で。

「ヒップホップとかって、ただスタイルだけ楽しんでる人はすぐ離れていったりするけど、そういうのが悔しくて。だから普遍的というよりもっと原理的というか、もっと芯の芯にあるものを表現したい。時代が流れていくなかで、新しいもんが古くもなるし、古いもんが新しくもなるけど、楽しんだもんを自分のなかにある引き出しから出していくようなクロスオーヴァーでおりたいです」。

PROFILE

BOO
大阪出身。2MC+1DJのグループ、S.B.S.のMCとして95年より活動を開始。翌年にはソウル/ファンクのカヴァーなどを演奏するバンド、Soul Nutsを結成して、ヴォーカリストを務める。同年、ピート・ロックの来日公演にてフロント・アクトを務めた際にMUROと出会い、彼のクルー=K.O.D.P.に加入。99年に12インチ・オンリーでリリースされた“Brothers Of Rising Funk”でソロ・デビューを果たす。2002年3月に山下達郎の“SPARKLE”をサンプリングした“smile in your face”でメジャー・デビュー。同年9月に“CARAVAN”、2003年1月に“BOOGIE DRIVE 678.”と快調にシングル・リリースを重ね、8月6日に初のミニ・アルバム『BLAQUE & P.P.』(cutting edge)がリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年08月14日 17:00

更新: 2003年08月14日 18:57

ソース: 『bounce』 245号(2003/7/25)

文/一ノ木 裕之