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インタビュー

CORNER


 圧倒的な音圧と疾走感もあって、HUSKING BEEにおける磯部正文のソング・クラフト、その素晴らしさについて言及する人は少なかったように思う。彼の別プロジェクトとなるCORNERのファースト・アルバム『走るナマケモノ』は、そんな彼のソングライターとしての魅力に加え、HUSKING BEEの熱っぽさとは異なる、サラリとした存在感が香ってくる。

「HUSKING BEEのときも、国内外を問わず自分が好きなアーティストと対バンするにはどうしたらいいのか?というのをずっと考えてきて。今回は、具体的に音をあとから加えられるようなコラボレートをするために、〈どのくらい、曲を料理してもらえる人と出会えるかなあ……〉と思いながら曲作りをしていました。HUSKING BEEだと、それまでの歴史を踏まえて作らなければいけないので、どうしても構えてしまうところもあるわけですけど、CORNERは最初から既成概念はないわけですし。それは聴いてくださる方にも作る側のどちらにも……」。

 CORNERを立ち上げる経緯について、彼はきっかけというよりは「ポツポツとアイデアが貯まっていった感じ」だと語る。弾き語りをベースにしたアコースティックな音色に加え、打ち込みやレゲエ・ビートなど、さまざまなプロダクションが次々と立ち現れてくる展開は、彼のクリエイティヴィティーの豊潤さを示している。

「サウンドが変わったっていうよりも、いろんなバランスがあるわけで……音楽だけじゃなくて、サッカー選手でも、ラーメン屋のおじさんでも、なにかを考えてクリエイトしている人が好きで。だから〈思考〉という表現がもっとも当たるところなんだろうなって僕は思っているんです。もともとパンクで出てきたからパンクで通そうっていうのも違うと思うし。もっとそのときに思ったことをやって変わっていきたい、という考えのなかで、今回はこれなんですね」。

 WATERCLOSETの伊藤悦士をはじめ、BACK DROP BOMBのベーシストである篭橋俊樹、かねてからそれぞれの作品に参加し交流の深かったクラムボンのmitoと原田郁子、お互いに気になる存在だったという曽我部恵一など、楽曲ごとに多彩なゲストを迎えているが、どれも驚くほど気負いがない。大仰なコラボレートにはない今作の弛緩したムードは、CORNERという存在が、クリエイターたちにとって自由な発想を出し合える自由な〈場〉であることの表れなのだろう。

「そうですね。いろんな人に参加してもらいたかったから、参加してくれる人がやりやすいように、ほかの音を入れる余地のあるサウンドを作っておこうかなと思ったんです。堅苦しいものやイメージがはっきりしているようなものではなくて、こういう意味が含まれているからこういう曲でなくてはいけないとか、そういう考えもなかった。そのほうが、いろいろな人がいろいろな解釈をしてくれると思うし」。

 さらに今作は、ジャケット・デザインも一般の公募から選ばれ、参加したアーティストの息づかいが手に取るようにわかるこのアルバムに華を添えている。

「応募してくれるみんなには、〈匂いのなか〉で絵を描いてほしかったんです。自分もアコギを弾いていて、手に弦の匂いがつくことで〈結果〉を感じられるし。そうして手間暇をかけた絵が、歌詞の横にあったら素敵だろうなあと。そうしたらネガティヴな気持ちもなくなったりするんじゃないかと思ったり……うん」。

『走るナマケモノ』に込められたクラフトマンシップは、調和の欠けた現実に対して疑問を呈し、ひとりで立ち向かえるよう自らを鍛えて止まない彼の、アーティストとしての立ち位置の表明でもある。そういえば、CORNERのライヴの前には、彼が共感を寄せるビョークの曲がかかっていたことを思い出した。

PROFILE

CORNER
HUSKING BEEのヴォーカル/ギター、磯部正文による別プロジェクト。これまで、2003年に発表された『across the sea~a tribute to weezer~』『SMELLZ LIKE...』といったコンピレーションで作品を披露。HUSKING BEEとは趣を変えたアコースティックなサウンド・アプローチを見せた楽曲は、各方面から静かな話題を呼ぶ。その後、WATERCLOSETの伊藤悦士をはじめ、曽我部恵一、クラムボンのmitoと原田郁子、BACK DROP BOMBの篭橋俊樹らをゲストに迎えてレコーディングを開始。HUSIKING BEE“Walk”のアコースティック・ヴァージョンも収められたファースト・アルバム『走るナマケモノ』(CARNAGE)が、このたびリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年08月28日 13:00

更新: 2003年08月28日 18:12

ソース: 『bounce』 246号(2003/8/25)

文/駒井 憲嗣