インタビュー

Dashboard Confessional


 2002年12月に発表された『MTV Unplugged 2.0』のジャケに写った姿はジェイソン・プリーストリー(「ビバリーヒルズ高校白書」ほか)ばりのハンサム。しかもタトゥーがビッシリ……。彼のことを知らない方にはさっぱりな話だが、いまや全米で3,000人規模の会場なら即ソールドアウトにしてしまうこの男、クリス・キャラバ率いるダッシュボード・コンフェッショナルの話だ。かつてはフロリダの良質エモーショナル・バンド、ファーザー・シームズ・フォーエヴァーでヴォーカルを務めていたが、同時に進めていたアコースティック・ソロ・プロジェクトが軌道に乗り、こちらに専念するようになった。2000年、アルバム『The Swiss Army Romance』(当初はドライヴ・スルーから、現在はヴェイグラントからボーナス・トラック付きで再リリースされている)でデビュー。2001年に発表したセカンド・アルバム『The Places You Have Come To Fear The Most』は、リリースから9か月以上が経ってからビルボード・アルバム・ランキング200にランクイン(最高108位)、トータルで50万枚のセールスを記録するヒット・アルバムとなっている。

「前作の曲を書いてたときは、すごく暗い時期だった。今回の曲は1年半かけて書き上げた。おそらく僕に〈暗い奴〉っていうレッテルを貼ってる人は多いと思うけど、それが僕という人間のすべてなわけじゃない。人生には誰でも明るかったり、暗かったりっていう時期がある。確かにあのアルバムは僕のある一時期を映し出したものであるけど、自分がどこに向かい、どうなっていくかというヒントでもあった」(クリス・キャラバ:以下同)。

 そんなクリスが新作『A Mark・A Mission・A Brand・A Scar』のサウンド面で向かった先は、バンドというスタイルだった。2年4か月ぶりとなるスタジオ録音アルバムに参加したのは、前述の『MTV Unplugged 2.0』でも共演し、いっしょに全米を回ったメンバーが大半を占めている。

「そうすることが簡単だからといって何度でも同じようなレコードを作ろうと決めたら、そのことによって傷を負うだろうってね。それをやったら自分の首を締めることになるよ」。

 アコースティック・ギター1本というスタイルを取ったクリスの声も胸に染みるが、バンドとしてのスタイルになると抑揚、つまり感情の起伏が音の塊としてダイレクトに飛び込んでくる。

「このレコードのテーマは、君にとって大切なことならどんな努力でもする、ってことなんだ。それが愛、または一生の夢のどちらかであっても、手加減することがどれくらい愚かなことか、やっと悟ったんだ」。クリスが語るこの言葉は、本作の曲にも当然現れている。

〈君のキスで僕は死にそうになる/いっそ殺して欲しい/そうすれば幸せに死ねるから〉(“Hands Down”より)──彼のメッセージに手加減はない。失われた愛、甘酸っぱい恋、人生の疑問、全米のティーンが同じような悩みに陥ったとき、彼らの脳裏にはクリスのメッセージが浮かぶ。そんな光景こそが〈MTV Unplugged 2.0〉の映像であり、ダッシュボード・コンフェッショナルのライヴである。ティーンとともに歌い、空間を共有することが彼のスタイル。

「自分の人生で初めて、将来が広く開かれてるんだ。いま自分にできないことは何だろう? 何でもできるよね?」。

 バンドの人気から生ずるイメージの拡大と心の傷、目標に対する使命感、それを乗り越え生み出された本作が輝いているのは当然だ。日常をともに過ごす、人生のKARAOKEになってくれる一枚。そこに歌を乗せるのは私たちだ。

PROFILE

ダッシュボード・コンフェッショナル
クリス・キャラバ(ヴォーカル/ギター)を中心に結成された4人組。現在のメンバーは彼のほか、ジョン・レフラー(ギター/ピアノ)、スコット・ショーエンベック(ベース)、マイク・マーシュ(ドラムス)となっている。ライヴが評判を呼び、2000年のデビュー・アルバム『The Swiss Army Romance』、翌年のセカンド・アルバム『The Places You Have Come To Fear The Most』、いずれの作品も大ヒットを記録している。2002年にはMTVの人気プログラム〈MTV Unplugged 2.0〉にも出演、同年12月には同タイトルのライヴCD+DVDを発表している。そして、9月3日には3作目となるオリジナル・アルバム『A Mark・A Mission・A Brand・A Scar』(Vagrant/ビクター)がリリースされる。

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掲載: 2003年09月11日 13:00

更新: 2003年09月11日 18:38

ソース: 『bounce』 246号(2003/8/25)

文/田中 拓宏