Tom Waits
Photo by Mondino
異才トム・ウェイツと鬼才ロバート・ウィルソンによって、革新的なオペラ劇がもたらされた。2人のコラボレーションは、90年の〈ブラック・ライダー〉を起点に、92年の〈アリス〉、そして今回の〈ヴォイツェク〉(2000年スウェーデンで初演後、欧米諸都市で226公演)で3作目となる。ロバート・ウィルソンと言えば、ルー・リードやデヴィッド・バーンとのコラボレーションでも知られる舞台演出家。ロック・ファンにもお馴染みだろう。今秋、〈ヴォイツェク〉の日本初演にあたって、舞台音楽を務めたトム・ウェイツに話を訊くことができた。
「〈ヴォイツェク〉は、ラヴストーリーなんだ。愛情、裏切り、狂気、苛立ち等、“愛”にまつわる一切合切が凝縮されてる。そして〈ヴォイツェク〉は、プロレタリアートのオペラでもあるんだ。オペラで、労働者階級や兵士や貧しい人を題材にすることは稀だからね。〈ヴォイツェク〉は初のプロレタリアート・オペラとして、オペラの可能性を広げることに成功したんじゃないかと思ってる。オペラを観劇できるゆとりのある人々が、ヴォイツェクのような貧しい兵士の話を体験することで、まったく新しい世界を垣間見ることができるはずさ」。
今回の制作経験が、次のオリジナル・アルバムになにがしか反映されるのだろうか。
「〈ヴォイツェク〉での経験がどう反映されるかは、そのときになってみないとわからないな。ボブ(ロバート・ウィルソン)との共同作業は、とても建設的かつ有意義なものなんだ。建設的な共同作業をすると、相手の持ってる要素が矢でも突き刺さるように、こちらの体内に入り込んでくる。演出家にしろミュージシャンにしろ、いっしょに冒険(=仕事)するっていうのは、埋もれた遺跡を発掘する考古学の作業に似てるかも知れない。だから自分も含め、ミュージシャンには勇敢かつ個性的であってもらいたいんだ。そんなミュージシャンから、私自身インスパイアされたいとも思ってるし」。
〈ブラック・ライダー〉〈アリス〉といった音楽劇を書いた後、99年、『ミュール・ヴァリエイションズ』という大傑作をトムは物した。聴覚と視覚が理屈ではなく感覚でシンクロする〈ヴォイツェク〉後、彼がさらなる傑作を創るだろう予感があるのだが。
「〈ヴォイツェク〉のレコーディングは時間がかかった。なぜかというと、〈ヴォイツェク〉のような音楽スコアとオリジナル・アルバムとじゃ、仕事の内容からして違うからね。自分のオリジナル・アルバムだと粗く混沌としたものを好むけど、〈ヴォイツェク〉のようなオペラ劇の音楽はもっと繊細でないといけないから、レコーディングに時間をかけて集中した。次のオリジナル・アルバムは、きっともっとラフに仕上がるだろう。今年の夏に曲を創って、9月からレコーディングに入る。いつリリースできるかはわからないけど、そのうちリリースされるんじゃないかな。キャスリーン(妻であり、音楽上のパートナーでもある)は、『Every Secret Thing』ってタイトルにしたがってる。いま、そのことで議論してる真っ最中さ(笑)」。
・「ヴォイツェク」日本公演
(全1幕 字幕スーパー有 上演時間120分 休憩なし)
演出・美術:ロバート・ウィルソン
音楽・作詞:トム・ウェイツ、キャスリーン・ブレナン
原作 :ゲオルク・ビュヒナー
会場 :東京国際フォーラム ホールC
開催日程 :
9月19日(金) 19:00
9月20日(土) 14:00 / 19:00
9月21日(日) 14:00 / 19:00
9月22日(月) 14:00
9月23日(火・祝) 14:00
9月24日(水) 19:00
問い合わせ:日本文化財団