インタビュー

双葉双一

私は断固として「体は食卓 頭は雲の上」で在り続ける! 孤高のシンガー・ソング・ライター、双葉双一の虚構のピュアネス


友部正人のパロディ? と耳を疑う、70年代から抜け出てきたようなフォーク弾き語りスタイルで、21世紀の京都に突如登場。同世代の、いわゆる〈はっぴいえんどチルドレン〉とは一線を画する、突き抜けまくった存在感と妖艶な王子様的ルックスでじわじわと中毒者を生み出している噂のシンガーソングライター、双葉双一。

 そんな彼の三枚目のアルバム『ママレードパイのかわいい食事』は、なんと〈孤高のフォークシンガー〉の肩書きを覆すバンド録音! ヴェルヴェット・アンダーグラウンドばりのカラフルな終末感漂うサイケデリック・サウンドは、前作までのイメージからすると意外といえば意外だが、個人的には「この路線で終りじゃないでしょ?」と思っていただけに、やってくれました!という感じ。

「やっぱり、一枚目や二枚目の感じで終らせるわけにも行かなかったというか、もともと弾き語りの人としてやっていくつもりは全然なくて、その時に作った曲に合うサウンドでやっていく……。それをみんながフォークシンガーとか言ってただけなんで。最初にバンドでやらなかったのは、完璧じゃないのが嫌だったんです。僕が5人いれば素晴らしかったんですけど、現実はそういうわけにも行きませんから……フフ。弾き語りなら100%邪魔されないでやれるので、最初はそれで誰にも負けないことをやろうと思ってやったんですけども、それもひと通り頂点を極めたと云いますか……フフ(と笑いながらうつむく)」。

 そんなある日、同じく京都の新進バンド「ははの気まぐれ」から手渡されたのが、彼のデモテープの上にバンドの音を被せたものだった。

 「それを聴いて、ああ、素晴らしい! と思って。運命…って云うんですか? だから双葉双一の歌があって、それに音を付けたという感じじゃないですね。僕もバンドの一員として一緒に……、そういう風に作りたかったんです」。

双葉の歌を核にリハを重ねた上で、ほぼ一発録りで作られた本作は、これまでの双葉ソロとも違う、ははの気まぐれとも違う、どこか架空のバンドの真夜中のセッション音源を聴くような、不思議な臨場感が漂っている。

 「思い付くだけのかわいい材料だけをふんだんに集めて作ってみました 味は保証できないけど見ためがいいからいいでしょ(“ママレードパイのかわいい食事”)」というイケナイお菓子は、オンナコドモはもちろん、男の子だって大好き。過去の2枚が読み手を選ぶ、純文学みたいなものだったとしたら、このアルバムはもう少し無節操な……そう、つまりポップだ。

「(曲のイメージは)降りて来るとしか言い様がないですね……。作ってから、これは映画の『ひなぎく』に似てる、とか思うことはありますけど。思い付くだけなら誰でも出来るけど、そこからコントロールしていくことがまた必要で……。このアルバムでも特に“身体は食卓、頭は空の上”に関しては、素晴らしく強い意志をもった曲である、ということを皆さんに云っておきたい!(珍しく、きっぱりと)。この曲は僕、一番好きです。それは歌詞の最後の二行に集約されてます(と、目を宙に漂わせる……)」。

 そんな言葉からも明らかなように双葉双一の「孤高さ」とは、単に「僕って変わってるんです」といったプロパガンダではない。彼は断固として、『身体は食卓、頭は空の上』であり続けようとする。なんと気高く、潔くも執念深い表現への信念であろうか!

 「僕は自分が好きというより、こうなりたいっていう気持ちの方が強いですね。こうあるべき自分が好きっていうか、そのままの自分は……(ボソッと)好きじゃない。美しくありたいと願うことは、悪いことのように思われるフシもありますよね? でも僕は、綺麗なものは綺麗だと断固として云いたいし、贅沢でいたいです。やっぱりステージ上では王様でありたいですから…」。

 そんな彼が、「何がうっとおしいって、君といる時の僕 そんなこととっくに気付いているけど それでも会いに行くのが愛 高度なレベルの愛なのさ(“愛の伝染”)」と唄うラブソングの素晴らしいことといったら…! 騙されて聴いてみて欲しい。

 ちなみに今後は、「バンドをやってみたことにで逆に、弾き語りのやり方も違ってきましたね。僕にとって両者は全く違う種類の表現と云ってもいいかも知れません……。まさにアナクロみたいな、将校がどうした、メイドがどうしたとかいう曲も作ってみたいですね……」とのこと。双葉双一、まだまだ底が知れません。

・『ママレードパイのかわいい食事』収録曲
1. Welcome to my show
2. 体は食卓 頭は雲の上
3. デビリー (フル試聴)
4. わたしの人魚姫?
5. ママレードパイのかわいい食事
6. I think that 以下
7. 5×5のクリスマス (フル試聴)
8. 愛の伝染
9. ドラムレディー
10. スモール・スター・クラウド (フル試聴)

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2003年09月22日 13:00

更新: 2003年09月22日 16:25

文/井口 啓子