Stereo Fabrication Of Youth
差し出された名刺を見て驚いた。Stereo Fabrication of Youthのリーダー、江口亮の肩書きは〈代表取締役〉となっている。アーティストが趣味で名刺を作って渡すことはたまにあるが、取材前に事務所経営者として挨拶されるのは初めてのことだ。名古屋在住の彼らが、バンド活動にまつわる一切合切を、すべて自分たちの手で切り盛りしているという話はすでに知っていたものの、ここまで徹底して独立採算制を貫いているとは思ってもみなかった。しかも彼らはまだ今年で24歳という若さだという。
「人間としてちゃんとメシも食えないヤツが音楽なんてやってていいの?って思うんです。こういう時代なんだから、僕らみたいなほうがずっとリアリティーがあると思ってしまうんですよ。というのも去年、大学出て親の仕送りもなくなったとき、一人で稼いで生きていくのって大変なんだなって思ってしまって。そのときに自分のなかで音楽をどう捉えるかが決まったんです」(江口)。
2枚目のフル・アルバムにあたる新作『Audity』はメジャーからのリリースになるが、聞けば、かなりバンドの意志を尊重した契約だそうで、言わば〈放任〉に近い自由な活動方針を容認してもらっているという。
「とはいえ、僕らはまだアルバイトをやってたりするし、全国的にまだ認知されてもいないし、すごく売れてもいない。そんな状態でアーティストぶるのはまだ早いでしょ、って思うんです。それよりももっともっと先にやるべきことがあるというか。自分たちの音楽を突き詰めていくことが第一だし」(江口)。
実際、クサいまでにベタな歌メロと、ドラマティックな演奏に彩られた彼らの音楽は、しばしば現実を忘れるほどの高揚感をもたらしてくれるものだ。ニルヴァーナからMr.Childrenまで、そこにはさまざまな〈先輩〉たちへの敬意も見える。だが、最終的に驚かされるのは、〈青さ〉が剥き出しになっている熱い主張が、音と音の隙間から滲み出ていることだろう。つまり、音に訴求力がある。好き嫌い、良い悪いを超えて、引き込んでいく、巻き込んでいく強引さがある。そこがいい。
「僕は、大学に入るまではずっと宅録をやっていたんです。中村一義の『金字塔』を聴いて〈負けちゃおれん!〉と思って。でも、大学で江口と知り合ってからバンドをやるようになって広がりましたね」(和田勉)。
「(和田と)〈L'Arc-en-Cielっていいよね?〉って意気投合して。なのに、最初にやったバンドがカーペンターズのカヴァー・バンドだったという(笑)。でも、つまりはそういうことだと思うんですよ。いいバンドって黒玉(音符、メロディーの意味)だけで説得力がある。たとえば、ぜんぜん違うアレンジに変えたり、オルゴールの音に作り変えても感動を得られるというか。でも、そういう楽曲をちゃんと書けるアーティストってなかなかいない。L'Arc-en-Cielとカーペンターズには黒玉の説得力があると思う。自分たちもそうありたいんですよ」(江口)。
江口は、Stereo Fabrication of Youthを、ディズニーランドでいうミッキー・マウスの存在にさせるのが夢だと言う。「いまはまだ〈清掃係〉だけど、ゆくゆくは〈もぎり〉になって、そしていつかはディズニーランドの〈象徴〉でもあるミッキーになって客を楽しませたい」と。
「2年くらい前、ミッキー・マウスに嫉妬したんですよ(笑)。歌うわ、踊るわ、子供に愛されるわ、大人のおねえちゃんにも愛されるわ、魔法も使うわって。でも、それがエンターテイメントだと思うんです。せっかく気に入ってくれたリスナーにはずっと聴いていてもらいたいし、死ぬまで楽しんでもらいたい。読み捨てられてしまう雑誌じゃなくて、ハードカヴァーの本のようにいつまでも手元に置いておきたくなるような存在でいたいですね」(江口)。
PROFILE
Stereo Fabrication of Youth
98年春、大学のサークルで知り合った江口亮(ヴォーカル/ギター)と和田勉(ギター)の2人で結成。99年春より、Stereo Fabrication of Youthの名で活動を始める。サポートを得ながら地元・名古屋を中心にライヴ活動を展開していたが、2000年8月にリリースしたファースト・アルバム『Are you independent?』のリリースを期に東京、大阪などにも足を広げる。その後、内田崇仁(ベース)、加藤由浩(ドラムス)を加えた現在のメンバーとなり、さらに精力的なライヴ活動を展開、各地で話題を集めていく。2002年8月にはミニ・アルバム『KNOW FUTURE FOR YOU』を、2003年4月にはシングル“1979”を発表。9月26日にセカンド・アルバム『Audity』(東芝EMI)がリリースされる。