Tim Deluxe
昨年夏の大ヒット・シングル“It Just Won't Do”で一躍ダンス・ミュージック界における時の人となったティム・デラックス。浅草キッド風に言うならば、彼はこの瞬間〈満天の星空で、ひときわ輝く一等星〉になったのでした。このシングルとともに、まさに世界中を駆け巡ったティム・デラックスの2002年。
「去年はホント忙しかったなあ。夏は“It Just Won't Do”のリリース直後からDJツアーをしていたんだけど、月に20本も入れてしまって(笑)。ホント寝る暇もなかったよ! ……そんなこんなで彼女とも別れちゃったよ(泣)」。
おお、男の永遠のテーマ……。さて、青年ティム・デラックスはこの“It Just Won't Do”で突然出てきた一発屋ではないのでちゃんと説明をしておきましょう。もともと、10代前半には実兄や近所の友達とDJチームを結成していた彼、当時はヒップホップをプレイしていて、名前もデラックス(D-Lux)と名乗っていたそう。その後、ハウスをプレイするようになると「Eを加えて、〈Deluxe〉にしたんだ。このほうがイイでしょ?」という経緯でティム・デラックスが誕生。15歳から楽曲制作を始めると、その名はさらに知られていくようになり、そこで運命の出会いが。現在彼の作品をリリースしているレーベル=アンダーウォーターのボスであるダレン・エマーソンとの出会いです。ダレンといえば元アンダーワールドの、という肩書きももはやいらない、UKダンス・ミュージック界の重要人物。
「ダレンが僕の曲をプレイしているらしいって聞いて、早速会いに行ったんだ。そうしたら異常に意気投合してね」。
アンダーウォーターの若頭として迎え入れられた彼は期待に応えてヒット曲を連発し、そしてこのたび、ついにアルバム『The Little Ginger Club Kid』を完成させたのです。おや、アルバム・カヴァーにはかわいらしい男の子が。
「これ、僕だよ。ずっと思っていたんだけど、DJが作ったアルバムのジャケってなんであんなにクールなんだろう? それよりも、僕は自分のありのままを自分の音楽で表現しているから、ジャケも自然体がいいと思ったんだ。それに僕は子供の頃から変わらない部分を大切にしているよ」。
そう、シングルの成功などで注目のリリースとなったこのアルバムでも、ティム・デラックスはありのままです。
「そうでありたいね。うん、アルバムへのプレッシャーは少しあったよ。でもそれは新しいことへチャレンジする時に感じる、良いプレッシャーなんだ。だって、シングルは通過点なんだから。常に新しいところへと歩き出していきたいよ」。
その言葉どおり、本人言うところの「ファンキーで、セクシーで、ソウルフルなハウス・ミュージック。男の子も女の子もいっしょに楽しめるもの」という基本はしっかりと、さらに新しいチャレンジの表れはサウンドの幅となってこのアルバムにヴォリュームを持たせています。それに多くの楽曲ではヴォーカルをフィーチャーしていて、とっても楽しく聴けますね?
「歌は大事だよ。僕も歌は大好きだし、本当にいい歌の曲って一生モンだよね。クラブ・トラック集/DJアルバムではなくて、歌もメロディーも入れてアルバムを作ってみたかったんだよね。ラヴソングからマッシヴなクラブ・チューン、ファンクの質感を持ったパーティー・ソング、ラテン、エスニック、気持ちのいいダウンテンポ、クレイジーなリリック、さらに強烈なギター・ソロをフィーチャーしたものまで(笑)。どの曲にも違ったヴァイブが込められているよ」。
今年のダンス・アルバムの最注目作でありながら、アーティスト・アルバムとしての体裁もしっかり整っているアルバム『The Little Ginger Club Kid』。名は体を表す、なんともデラックスなアルバムになりましたね。
PROFILE
ティム・デラックス
ノース・ロンドン出身。10代初めからDJプレイや楽曲制作に取り組む。19歳の頃にはすでにダブル99のブレーンとして活動し、その後はカイリー・ミノーグなどのリミックスを手掛けるなどして活躍。なかでもレイヨ&ブッシュワッカ“Love Story”は高い評価を得る。2002年には、ダレン・エマーソンの設立したアンダーウォーターからティム・デラックス名義でのシングル“It Just Won't Do”をリリース。ノーマン・クックらも絶賛した同曲のスマッシュ・ヒットで一気に注目を集める。2003年夏には“Less Talk More Action!”をフロア・アンセム化させ、〈フジロック〉にも出演。このたびファースト・アルバム『The Little Ginger Club Kid』(Underwater/BEAT)がリリースされたばかり。