Nappy Roots
〈田舎者のどこが悪い〉。昨年、『Watermelon, Chicken And Grtiz』でカントリー・Bボーイの心意気を高らかに宣言してメジャー・デビューを飾ったのがナッピー・ルーツだ。スイカ、チキン、穀物を粥状にしたグリッツ、というストレートなタイトル、鋤を手に農場でラップする姿を映したビデオ。お笑い路線ではないし、南部モノに多いピンプ路線でもない。等身大のマジメなリリックでヒップホップの真髄=〈地元をレプリゼントする〉精神を貫いた同作は、大いに共感を得てダブル・プラチナムを記録。メンバー6人のうち、スキニー・デヴィル、B・スティール、ロン・クラッチに話を訊いた。
95年にウェスト・ケンタッキー大学で結成、と一応なっているが、「メンバーの顔ぶれはは92年から96年までの4年間で固まった。年齢も22歳から28歳の間とバラバラなんだ」(B・スティール)。地元のルイヴィルは、ケンタッキー・ダービーの開催地。というか、それしか思い浮かばない。彼らの成功を受けて、9月16日は州の〈ナッピー・ルーツ・デイ〉に制定されたほど。
「どこからも距離があるから、いろいろなヒップホップを均等に聴いてたよ。東のスリック・リックやランDMC、西のアイス・キューブやドクター・ドレー……。もちろん、南部のものは馴染みが深い。それらを消化して自分たちのスタイルを確立した結果、どこでも受け入れられる音楽になったんだと思う」(クラッチ)。
スイカやチキンは一歩間違えれば黒人差別の象徴として使われる。それを逆手に取ったのがおもしろい。
「スイカはみんな好きだろ? 別に構わないじゃないかって」(B・スティール)。
「かつて俺たちに対してネガティヴに使われていた言葉をわざと使った。誰もナッピーな(縮れた)髪の毛なんか欲しくない。でも、それが現実なんだ。ネガティヴとされていることをポジティヴにしたかった」(クラッチ)。
〈ネガティヴをポジティヴに〉。それが彼らのパワーの源らしい。6月には米軍の慰問のため、イラクとクウェートに行ってパフォーマンスしている。「駐屯している兵士を励ます組織があって、そこの人気投票で俺たちがジェイ・Zの次点だったんだ。戦争の是非はともかく、彼らをサポートするのは大事だから」(クラッチ)。
早速届けられた新作『Wooden Leather』には“War/Peace”という曲もある。
「イラク戦が始まった時に作った曲で、俺たちもTVだけでは何が起こっているかわからない怖さを感じた。ただ、この曲は自分の内部の葛藤、自信をつけることで心の安らぎを得ようってのがテーマだ。家族や仕事のことでも、真の安らぎを得るために闘わなきゃいけないイヤな部分はあるだろ? この曲を聴いて怒りのエネルギーをポジティヴな方向に転化してもらいたいんだ」(クラッチ)。
アルバム全体については「前作で示した俺たちのサウンドをネクスト・レヴェルに引き上げ、河や砂漠を渡って世界をめざした内容だ。ケンタッキー出身である俺たちの世界観を知らせたかった」(B・スティール)、「グローバルなフィーリングを入れたかったから、アトランタ、ナッシュヴィル、LA、NYと、プロデューサーもいろいろな土地の人を起用した」(クラッチ)と語る。結果、〈ナッピー・ワールド/サウンド〉を深化させた手応えはばっちりのようで、「最初の頃にラファエル・サディークと組んだのは大きかった。大物のレヴェルに追いつこうって奮起して、とにかくいままで以上、俺たちの限界以上の音を追求する姿勢をつけた。全部仕上げるまでその姿勢を貫いたんだ」(B・スティール)。
グループを維持する秘訣は「コミュニケーションと互いに対するリスペクトが鍵。障害は常にあるけれど、良い音楽を作るにはこの6人が必要なんだ、って考えて対処すればたいていはうまくいくね」(クラッチ)とのことで、一見、フツーっぽいカントリー・Bボーイたちの姿勢、テーマには普遍性が秘められている。ヒップホップ仕様の新型ブルースを引っさげ、彼らは世界をめざす。
PROFILE
ナッピー・ルーツ
スキニー・デヴィル、R・プロフェット、スケールズ、B・スティール、ロン・クラッチ、ビッグVの6人がウェスト・ケンタッキー大学で出会い、95年に結成。地元中心に活動を始め、98年にデビュー・アルバム『Country Fried Cess』をリリース。同作のヒットによってアトランティックと契約し、2002年に『Watermelon, Chicken And Gritz』でメジャー・デビュー。そこからシングル・カットされた“Po' Folks”が1年以上もチャートインし続けるロング・ヒットとなり、アルバムも100万枚以上のセールスを記録、一躍トップ・アクトの仲間入りを果たす。ラファエル・サディークらも参加したニュー・アルバム『Wooden Leather』(Atlantic/ワーナー)がこのたびリリースされたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2003年10月23日 12:00
更新: 2003年10月23日 12:43
ソース: 『bounce』 247号(2003/9/25)
文/池城 美菜子