インタビュー

THE BACK HORN

バンドの明るい現在/未来が窺える会心のニュー・アルバム『イキルサイノウ』が到着!!


 メジャー3枚目のアルバムにして、またも会心作が誕生した。THE BACK HORNのニュー・アルバム『イキルサイノウ』。これまでの『人間プログラム』『心臓オーケストラ』という2枚のアルバムで、生や死、そして愛や憎といったみずからの内面に渦巻く濃密な感情を、余すことなく音楽へと変換させてきた彼ら。しかし本作は、これまでの彼らとはどこか決定的に異なる、ある種の〈陽性〉の輝きすら感じさせる充実の仕上がりを見せているのだ。

「なんか、すごく音楽っぽくなったと思うんですよね。〈なんだこれ?〉って衝撃を受ける前に、まず音楽として飛び込んできて、そのあと自分のなかで〈なんだこれ?〉ってなるっていうか。いままでのはカタマリみたいな感じ、音から出てくる違和感みたいなのが強くあったと思うんですけど、今回のは音楽として鳴り響いて、そっからガーッと入ってきたり、ジワジワ入ってきたり、そういう感じになってると思います」(松田晋二、ドラムス)。

 そうなのだ。本作から感じられるのは、これまで以上に聴く者の心にスッと入り込んでくる、〈ポップ〉という名の魔性の〈吸引力〉なのである。濃密な世界観はそのままに、しかしそれが知らずに聴く者を呑み込んでいくような浸透圧の低いサウンドを手に入れたTHE BACK HORN。そこには彼ら自身の心境の変化も関係していると言う。

「昔は、イメージがどうのとか、想像力や自由がなんだとか、そういう話ばっかりを延々してたんですけど、いまは作ってる間も、〈フレッシュだね〉とか〈冴えてるね〉とか、そういう単純な言葉しか出てこなかった」(松田)。

「やっぱ、実力がついたのかもしれない。昔から、俺らの音楽って結構ポップな音楽なんじゃないかっていうのは思ってて。歌詞の作り方とかはすげえ内側に潜って書くやり方だけど、それを誰でも触れられる形で音楽にしてるっていう意識はメンバー全員のなかに強くあったから。だから、それをちゃんと音楽として出せる実力みたいなものが、やっと俺たちにもついてきたのかもしれない」(菅波栄純、ギター)。

 しかし、彼らがそんなふうに自信と確信を持って、広く外の世界へとみずからの音楽を放てるようになった大きなきっかけのひとつは、やはり黒沢清監督の映画「アカルイミライ」(2003年公開)の主題歌となったシングル“未来”であったようだ。

「やっぱり、〈未来〉っていうことを考えただけでも、すごい新鮮だったと思う。俺は未来のことなんて考えたこともなかったし、それは俺にとって何の価値も感じられない言葉だったから。でもそこで、未来ってのはいまを生きるってことなんだ、未来について話すことはいまを生きてく意志を語ることなんだ、って思えるようになって。そういうのが、今回の開かれた感じの音楽性にも繋がってるのかもしれない」(菅波)。

 内面の闇を深く掘り下げるだけではなく、そこに渦巻くドロドロとした感情を、すべて今日を生きる糧へと確信的に変えてゆくこと――それこそが、彼らの見つけた本当の〈イキルサイノウ〉なのかもしれない。3枚目のアルバムにしてようやく到達した、彼らの音楽的/精神的な集大成とも言える本作。いま、彼らはこの〈世界〉を肯定する。

▼THE BACK HORNのアルバムを紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年11月06日 16:00

更新: 2003年11月06日 17:19

ソース: 『bounce』 248号(2003/10/25)

文/麦倉 正樹