KIMONO MY HOUSE
快楽原則にのっとった、ポップス・ジャンキー・ミュージック
KIMONO MY HOUSE:左からモリタ・クラウザー・ストロング、水島大輔
ロック、ヒップホップ、ジャズ、ボサノヴァなど、90年代以降の若者の〈フラットな耳〉で編集されたトラック。そこにとびきりキャッチーなメロディーが乗り、日常会話やドラマのセリフ、映画のSEから抜きだしたようなサンプルが重ねられる。単純化して言えば、KIMONO MY HOUSEの音楽はそう語ることができる。しかし、11月15日にリリースされる彼らのファースト・アルバム『KIMONO MY HOUSE』を聴くと、それだけでは伝えられない〈なにか〉が潜んでいるのは間違いがない。では、その〈なにか〉とはいったいどういったものなのか……。
この、雑多でユーモラスで、かつシニカルな音楽を、過去の膨大な音楽の遺産と当てはめながら解析しようとしてもおそらく無駄なことだ。こちらの手が届きそうになると、不遜な笑みをたたえながら逃げていく2人の姿が浮かんでくるのだ。――その2人とは、モリタ・クラウザー・ストロングと水島大輔。スパークスが74年にリリースした傑作『KIMONO MY HOUSE』からそのままユニット名を拝借し、京都を中心に活動を続ける彼ら。そもそも、どうしてこんなバンド名を選んだのだろうか?
「〈こんな名前のグループがいたら面白いかな〉というジョークで付けただけなんです。スパークスに特別な思い入れがあったわけじゃないんですよ」。(モリタ・クラウザー・ストロング、ギター/ヴォーカル)
なんとも斜に構えた感のある返答ではあるが、彼ら2人が持つクールなユーモアは、バンドにとって一つのキーワードとなっているようだ。日常をシニカルに切り取り、抜群の瞬発力でもって自分達の世界を開いていっているように見える詞の世界にもそれは表出している。
「無理して面白いことをしようとは思っていないけど、作品にそういうものが入ったらいいかな、とは思っています。このアルバムも、自分たちの中に特にテーマがあったというわけではなくて、普段のジョークまじりの会話でなんとなくでき上がってきたというか」。(モリタ)
では、その冷静で客観的な視点は自らをどう分析するのだろうか?
「現時点でのベストができたとは思っているけど、僕たちはまだまだプロセスの途中。これからもっと作品とライヴを重ねて成長していきたいですね」(水島大輔、ギター/トラックメイク)
「もともと、BGMになりそうなものが好きではないんですよ。純粋に自分が好きなメロディーを作っているだけなんです」(モリタ)
90年代以降の〈快楽原則に従った耳〉の持ち主である2人が作り出す曲が快楽に向かわないわけがない。宅録を通過した偏執的トラック・センスを持ち合わせながらも、あくまでもその主眼が歌に注がれている部分。これが彼らの楽曲の快楽性の高さになっているのではないだろうか。
・『KIMONO MY HOUSE』収録曲
1. STAND BY
2. the girl from retoro (フルレングス試聴)
3. 瞳でアイズして
4. Hous Play (フルレングス試聴)
5. 神に背いて皆踊る
6. Escape Break
7. 気の向くままに (フルレングス試聴)
8. friend's gone
9. 番狂わせのクリスティー
10. Hey, your soul
11. 永い日々
12. Hello, old my shoes