インタビュー

ASIAN KUNG-FU GENERATION


「覚醒しました!」とドラマーの伊地知潔が胸を張れば、ヴォーカル&ギターの後藤正文がニヤリと笑って「もっとしようよ!」と混ぜっ返す。巷では、ギター・ロックの未来を担う最有力候補としてその名を挙げられているASIAN KUNG-FU GENERATION(通称:アジカン)であるが、いい意味でまだ未完成であり、そんな自分たちの位置をしっかりと認識しているところが頼もしい。急かされたって動じない、クレヴァーで地に足の着いた、ほかに代わりが見当たらないほど美しくエモーショナルなメロディーとサウンドを持つバンド。ファースト・フル・アルバム『君繋ファイブエム』は、そんな彼らのジャイアント・ステップとなる作品である。

「アジカン自体の成り立ちが〈憧れをどうやって消化していくか?〉っていうところから始まってるんですよ。でも、それもこのアルバム制作の途中ぐらいで見切りがついてきた。強烈にインスパイアを受けたナンバーガールすらも“N.G.S”っていう曲で片付けたし。〈オルタナっぽい曲を作れ〉って言われたら、別にできますよ。いくらでもできるけど、実際にやってて楽しいと思うのは、徒然なるままに歌っているなかでふと思いついた〈いいメロディー〉とか、そういうほうが楽しいし気持ちもノルんですね。常に新しい音楽だけをやっていくバンドだとは思ってないし、そこを広げていく役割を担う気はまったくない。普遍的にいい音を鳴らしていきたい、いい歌を届けたいっていう気持ちのほうが強いです」(後藤)。

 2002年にインディーでリリースされたのちにメジャーで再リリースされ、ロングセラーを記録しているミニ・アルバム『崩壊アンプリファー』と比べると、バンド・アンサンブルの充実感がまるで違う。メンバーそれぞれがこの1年間、覚醒のきっかけを掴もうと試行錯誤してきたものが、ここへきてようやく花開いた印象がある。

「デモを録ってたときに、自信があったのに、ディレクターから〈ヘタクソ!〉って言われて。その日からレコーディングまでの2か月半の間に、相当練習しましたね。おかげで、作曲の時点で自分の役割も考えるようになりました。今回、ドラム目立ってませんか?(笑)。ここは自分の場所だ!って、プレイヤーならば主張しないと」(伊地知)。

「レコーディングは、いい意味で緊張感があったし、いいテンションが維持できたと思います。ソロをバリバリ弾くとかじゃなくて、印象的なリフを弾きたいっていう自分の志向がよく出てると思います」(喜多建介)。

「潔くんが発想豊かなドラマーで、そこで曲の世界観が広がる部分が大きいから、僕はそこを活かすプレイをしたい。リズム隊の理解度も深まったし、お互い、次にやりたいことが手に取るようにわかるようになった。底上げができたと思います」(山田貴洋)。

 もともと、ブラーやオアシスが華やかにシーンへと躍り出たころのUKロックに強い憧れを持ってバンドを始めたというだけに、キャッチーなメロディーへの純粋なこだわりは、アジカンの基本である。オルタナ経由王道ギター・ロック行き。先の長い、しかし、輝かしいその道が、彼らの目にははっきりと見えているはずだ。

「歌モノとして、ド真ん中のものをやっていきたい。〈僕ら、売れたいです〉って言うと、それが恥ずかしいことだと捉えられてしまうかも知れないですけど、そういうのもおおっぴらにして言ってもいいんじゃない?と。まあ、それが最初にあるわけじゃないですけど、いい曲を作りたいという欲求があって、それを達成したうえで多くの人に聴かせたい。不器用でもいいんじゃないですかね。まっすぐしか投げられないんですよ、僕ら(笑)。曲げても曲がらないことを自覚してるんです」(後藤)。

PROFILE

ASIAN KUNG-FU GENERATION
96年、後藤正文(ヴォーカル/ギター)、喜多建介(ギター)、山田貴洋(ベース)、伊地知潔(ドラムス)によって結成。結成当初は全曲英語詞による楽曲で地元横浜を中心にライヴ活動を展開していたが、2001年ごろから日本語詞の楽曲に取り組むようになり、都内での活動を増やしていく。エモーショナルなギター・サウンドとキャッチーなソングライティングはライヴを重ねるごとに進化し、バンドへの注目度も飛躍的に上昇。2002年11月にはミニ・アルバム『崩壊アンプリファー』、2003年8月には“未来の破片”、10月には“君という花”とリリースを重ね、いずれも高い評価を得る。このたび、待望のファースト・フル・アルバム『君繋ファイブエム』(キューン)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年11月27日 17:00

更新: 2004年01月22日 17:50

ソース: 『bounce』 249号(2003/11/25)

文/宮本 英夫