ART-SCHOOL
バンドのありのままをさらけ出し、その音楽性をさらに飛躍させた新作『LOVE/HATE』
虚無や死、あるいは圧倒的なネガティヴィティーといった言葉で語られてきたロック・バンド、ART-SCHOOL。ソングライターである木下理樹(ヴォーカル/ギター:以下同)の「ネガティヴなことを歌って、ポピュラリティーを得たい」という趣旨の発言もあって、もしかすると彼らの世界観は限定され、誤解されているのかもしれない。しかし、目の前でビールを煽り、「別にアル中じゃないですよ(笑)」と軽口を交えつつ、ソングライターの彼は語る。
「まぁ、ネガティヴでいるってことは、僕らにとっては気持ちいいことだし、そういう部分は多かれ少なかれ、誰しも持っていると思う。初めて取材する人には〈どうして、そんなネガティヴなんですか?〉って、よく訊かれるんですけど(笑)、僕からすれば、それは普通のことだと思うんですよね。だから、より多くの人に気持ちよくなってほしいし、言いたいことも昔から一貫してて、〈そのままの俺とそのままのあなたでコミュニケートしたい〉っていうことを、手を変え品を変え、歌い続けているだけなんですよ」。
それは彼の詞世界にとどまらず、〈ニルヴァーナ〉や〈グランジ〉といったキーワードで語られてきた彼らの音楽志向にも言える。
「ニルヴァーナとかグランジとか、俺らを語るとき、そういうキーワードが多いのは前々から感じてて(笑)。毎日ニルヴァーナを聴いてるわけじゃないし、小学生のときにはトップ40もの……バングルスとかビリー・ジョエル、あとヘヴィー・メタルなんかも聴いてましたからね。もちろん、その後ニルヴァーナと出会ったのは事実ですけど、その一方でジェリーフィッシュなんかも聴いてたわけです。まぁ、ニルヴァーナっていうキーワードを出すことで語りやすいっていう〈オトナな事情〉もあるんでしょうから、なんとも言えませんけど(苦笑)。ベースの日向(秀和)くんは、ZAZEN BOYSでヒップでブラックなこともやってるし(笑)、いろんな側面があるんです」。
しかし、そんな発言を踏まえずとも、ART-SCHOOLのニュー・アルバム『LOVE/HATE』は、彼が第一級のソングライターであり、それを歌い演奏するバンドがポップ・センスに長けていることを明らかにしている。
「今回は自然な空気感でやるっていうことをいちばん考えてて、いい意味で演奏も適当だったり、詞も歌入れ直前まで書かなかったりして、何も考えずにレコーディングしたら、こういうものが出来たっていう。当初は2枚組のアルバムを考えてたんですけど、2枚組は聴かれないなって気付いて止めたんですけど(笑)、曲はたくさん出来たので、“EVIL”みたいな攻撃的な曲と“BUTTERFLY KISS”や“しとやかな獣”みたいなメロウな曲をごちゃ混ぜに入れたっていう。だから、通して聴くといびつに聞こえるかもしれないですけど、そのいびつさにありのままの自分がいると思う」。
キュアーのロバート・スミスが憑依したかのようなヴォーカルを聴かせる“モザイク”やハウス・オブ・ラヴの“Shine On”を想起させる“アパシーズ・ラスト・ナイト”、あるいはアコースティック・ギターの弾き語りとサウンド・コラージュが混在する“SONNET”など、そのヴァリエーションがかつてないほどの広がりを見せた本作。それは怪しい輝きを放つプリズムのように闇を照らすと、彼らとリスナーの道標になるような……そんな気がする。
「吹っ切れたというか、物事がどうでもよくなってきたのかもしれない。だって、メジャーのレコード会社、メジャーの事務所に所属しているわけで、どうやれば売れるとか、こういう発言をすれば読者が騙されるとか(笑)、そういうカラクリがわかっちゃったんですよ。でも、それに対して醒めてるわけではなくて、音楽に対してはやっぱり熱いし、聴いてほしいっていう気持ちは一層強まってますよね」。