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インタビュー

Clarkesville.


 思わずスキップしたくなるストリングスの甘美な響きと極上のメロディーに満ちた先行シングル“Secret File”が、耳の早いポップ・フリークたちの胸をキューンとさせているクラークスヴィルことマイケル・クラークが、アルバム『The Half Chapter』を引っさげて本格的に日本デビューを果たした。イギリス・バーミンガム出身で22歳のこの青年がデビューに至ったきっかけは、シンプルかつ大胆な行動からだった。なんと、あのクレイグ・デヴィッドを擁するレーベル、ワイルドスターのオフィスへギター1本を持って売り込みに行き、その場で2、3曲を歌って契約を即決させてしまったというのだ。

「うん、マネージャーといっしょにね。たしかに図々しい感じだけど(笑)。でも、1人か2人を目の前にして、曲をプレイするってことはよくやってたんだ、誰かが契約してくれるって自信はあったよ。で、ついにその時がきた!って感じだった」。

 幸運というよりも必然。作品で発揮されているメロディーメイカーとしての才能を聴けば、そう納得するほかない。そしてその才能を育んだのが、幼少の頃から始めていたピアノやギターと、「あらゆるところにロックンロールがあった」と語るアムステルダムでの幼少時代。これまで彼はどんな音楽と出会い、どんなアーティストの作品を聴くようになったのか? そのコレクションをちょっとだけ教えてもらった。

「僕の一生のお気に入りはU2の『Achtung Baby』。彼らは僕が最初に恋をしたバンドさ。最近買ったのは、スティーヴィー・ワンダーの『Innervisions』。オールド・スクールが好きなんだ。すべてがデジタライズされた最近の音よりも、温かいサウンドが素晴らしいよ。エルトン・ジョンの『Madman Across The Water』もそうだよね。ザ・バンドも買った。おそらく僕のいちばん好きな曲は“Weight”かな」。

 シブいっすね。ホントに22歳? けれども、ここに挙げてくれたどのアーティストにも共通するのは、普遍的な歌の強さ。その色褪せることのないメロディーの美しさは、クラークスヴィルにも同様に存在する。そこへポップな輝きをサラリと加えたのが、プロデューサー、マーティン・テレフェ。彼はクラークも大ファンである、ロン・セクススミスの最新アルバム『Cobblestone Runway』を手掛けている。

「僕は彼のレコーディング方法における、アナログなテクノロジーが気に入ったんだ。それに彼は、あんまり音楽にエフェクトを掛けない。それは凄くクールなことさ。というのも、そのほうが音の一つひとつがとてもリアルだから」。

 そうして制作された今作には、60~70年代のシンガー・ソングライター作品の趣を隠し味としつつも、トラヴィスやコールドプレイにも通じるメランコリックなメロディーや胸躍るポップ・チューンが満載。これまで彼が受けてきたあらゆる音楽的影響が見事に実を結んでいるのだ。そしてさらに大切なのが、押しつけがましくなく、そっと背中を押してくれるような肯定性がアルバム全体を包んでいること。特に〈誰にも人生最良の日々は訪れる〉と歌う“Everyone Will Have Their Day”が印象的だ。クラーク自身もこの曲には励まされてしまうとのこと。

「ああ、変な話だと思われてしまうだろうけど、そうなんだ。あれは僕が一番最初に書いた曲なんだけど、実際、僕自身が歌っているときでもなんだか心揺さぶられるというか、そんな気持ちになるんだ」。

 現在の広大な音楽マップにひょっこりと現れた〈クラークの村〉。その存在はまだ小さいかもしれないが、訪ねてみる価値は絶対にある。ギターを抱えたクラークがニッコリ歓迎してくれるはずだ。

PROFILE

クラークスヴィル
現在22歳になる、イギリス・バーミンガム出身のマイケル・クラークによるソロ・ユニット。アムステルダムで幼少期を過ごし14歳で帰国、アコースティック・ギターでソングライティングを始める。20歳のころ、現在のレーベルにみずからが出向きプロモーションを行い、楽曲の高いクォリティーとヴォーカル力が一目を置かれ即時に契約。本格的に音楽活動を開始させる。すでにコールドプレイやキングス・オブ・レオンらのサポートを務めており、いずれのライヴも地元のメディアから高い評価を受けている。11月5日には先行シングル“Secret File”の日本盤を発表し、このたびデビュー・アルバム『The Half Chapter』(Wildstar/Telstar/ビクター)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年12月04日 14:00

更新: 2003年12月04日 19:06

ソース: 『bounce』 249号(2003/11/25)

文/狩野 卓永

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