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インタビュー

サンボマスター


 今年の夏は、サンボマスターにとって〈今までと違う夏〉となった。7月にオナニーマシーンとのスプリット・アルバム『放課後の性春』をリリースし、同月末には〈フジロック〉に出演。その後はレコーディング。彼らの〈夏〉は音楽漬けだったのだ。

「レコ発ライヴを終えて、そのまま〈フジロック〉会場入り。で、ライヴをしてすぐに東京に戻ってレコーディング。そしてこの夏はずっとスタジオ。〈夏はどこへ行った!?〉な気持ちでしたね(笑)」(木内)。

 この時期に作っていたのが、彼らにとってファースト・アルバムとなる『新しき日本語ロックの道と光』。そのときすでにこのタイトルも心に決めていたという。青春パンクの過渡期にある昨今、〈新しき日本語ロックの道と光〉をこのアルバムで示すサンボマスターのサウンドは、〈ネオ・ジャパニーズ・ロック〉とも形容されている。

「音楽をやるっていうのは本来、ライヴだからこう、作品ではこう、っていう違いのあるものではないと思うんです。だからライヴと同じ感覚で、5曲続けて録音したんですよ。絶対にいいハズだから(録ったものを)聴いちゃいけない!という姿勢で。ミスの2つや3つ、入っているくらいのほうがいいですからね。直したりしちゃダメ。神様じゃないんだから。ミスがないわけないんだから」(山口)。

 集中力が散漫にならないように、聴き直さない。プラモデルを作ってるわけじゃないから録り直すことも拒否。気持ちが高まり、身体と心がピタッと合うことは、人間1日に何分もないのだから、そんな時間軸がピタリと来た瞬間の音を入れる。せーの!で曲を鳴らし、ライヴをする心積もりで臨んだレコーディングだった。行われたのは、3人だけのライヴ。気迫のプレイに「3人から湯気が出ましたよ」と山口は話す。そんなアルバムから流れ出す音は、サンボマスターの3人がステージの上でプレイしている姿をリアルに想像させるほどの、彼らの〈息遣い〉が滲む。

「ローリング・ストーンズのキース・リチャーズが言ってましたね。〈聴いていて、演っている姿が浮かぶのが本当の名盤だ〉って。今、自分たちにできる〈最高のアルバム〉を作ろうと臨んだレコーディングでしたから、もちろん名盤になりました」(山口)。

 完成度の追求ではなく、3人が瞬間的に出す〈奇跡の空気感〉を入れるのがCD。それがサンボマスターの方式なのだ。録音を部分的に重ねたり、手を加えることは「ヤブ医者に整形手術をさせるようなこと」(山口)とも言い放つ。

「準備を入念にして、集中してやれる瞬間が来たらブースに入って一気に演奏しました。その集中力と勢いっていうのは、ライヴ以上かもしれませんね。もっとも濃いサンボマスターが聴けるCDになりました」(近藤)。

 こうしてファースト・アルバムに刻まれたサンボマスターは全10曲。歌詞は思うままに歌うから、その日によってニュアンスが微妙に違うこともあるそうだけれど、それは〈今〉の彼らが感じることをそのままメロディーに乗せるため。素直で飾らない彼らの思いは、聴く者の〈素〉に寄り添い、励まし、元気を与え、そして自然と笑顔を生む。そんな曲ばかり。

「〈新しき~〉と名付けたからには、聴いてくれた人が日本語の美しさとかに新たに興味を持ってくれたらいいですよね。パンクやラウド・ミュージックが〈ロック〉ともてはやされがちだけれど、それだけではない。ロックって、ヴァラエティーに富んだ、レンジの広いものだと思いますから。そのロックの持つ〈おもしろさ〉を感じさせる。だからこその〈名盤〉なんですよ」(山口)。

〈新しき日本語ロック〉が指し示す道はどこへ続くのか。その光は今後のロック・シーンの何を照らすのか。このアルバムを聴いて、〈先にあるもの〉を感じたいと思う。

PROFILE

サンボマスター
2000年2月結成。山口(ヴォーカル/ギター)、近藤(ベース)、木内(ドラムス)による3人組。60~70'sのソウル/リズム&ブルースをベースとしたロック・サウンドで、都内を中心にオナニーマシーンと精力的なライヴ活動を展開し、今年7月にはスプリット・アルバム『放課後の性春』をリリース。日本語で綴られたストレートな歌詞と圧倒的な演奏力が話題となり、コンピ『E.V. Junkie』への参加や、〈フジロック〉への出演など、急速に活動の域を広げていく。このたび、山本聡(ガガガSP)、海北大輔(LOST IN TIME)らも参加したファースト・アルバム『新しき日本語ロックの道と光』(GOLDEN BALL/ソニー)が12月3日にリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年12月04日 14:00

更新: 2003年12月04日 18:30

ソース: 『bounce』 249号(2003/11/25)

文/えびさわ なち