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インタビュー

クラムボン

日常のなにげない風景や音をドラマティックに〈音楽〉へと昇華させた新作『imagination』!


 クラムボンのニュー・アルバム『imagination』は、“いってらっしゃい”で始まり、“おかえり”で終わる。それは、どこか未知の世界への旅立ちと帰還ではなくて、日常のなにげない風景をいかにスペシャルでドラマティックなものとして感じることができるかという意識の指標なのかもしれない。彼らは、前作『id』制作時のセッションを行った小淵沢のスタジオに機材を揃えるところからレコーディングをスタートさせた。

「事務所を立ち上げたことで、自分たちの時間を自分たちで管理しなければいけないというシビアな意識が生まれた。でもそのぶん、録音とかセッションをしようと思ったときに、すごくフリーな気持ちでいられたんです。それに、〈管理する〉っていうことは、自分たちの好きなことができるということでもあり、ある意味すごい贅沢じゃないですか。その瞬間の思いつきをすぐに現場で出したのが、今回のレコーディングの特徴でした。それでも、あとになって聴いてみると、曲ごとに3人の匂いも出ているし、歌としても非常に完成されていて」(ミト、ベース)。

 手作りのスタジオにプロトゥールズなどを導入し、〈草むらの上のテクノロジー〉的趣の場所で制作された『imagination』は、『id』の野心的なプロダクションと研ぎ澄まされた感覚を引き継いだ、フラットでリラックスした感触がある。膨大な数のアウトテイクを積み上げながら、彼らはフィジカルな快感原則に忠実なセッションを繰り返した。その結果は、巷のインスタントなプロダクションへのカウンターとしても作用している。

「いま、音楽制作ってある程度のリーズナブルな世界で作品を出せるじゃないですか。でもそうやっていくと、もっといい音楽を作りたいと思ったときのボキャブラリーとか感覚的な発想が、どんどん狭まってきてしまう。それを気づかせてくれたのはZAKさんをはじめ『Re-clammbon』でコラボレートした人たちだった。方法論を変えていけば、もっと新しいことができる。それを探していけ!ということだと思うんです」(ミト)。

 原田郁子の伸びやかな歌声とともに、ヴィジョンを限定しない曖昧さが魅力である彼らの楽曲だが、『imagination』でのそれは、すべて英語詞で構成された“Don't you know”、フィールド・レコーディングした音源をそのまま使用した“こだま”など、クラムボンとしてのセオリーからさらに解き放たれている。その広がりは言うまでもなく、小淵沢の自然や、みすからの生活とバイオリズムを大切にした制作方法によるものだ。

「いままでも、歌詞の部分も含めて〈これはこうなんですよ〉って説明するタイプではない、完結しない音楽を聴きたいと思っていたんですけれど、それを形にしたっていうのかな。『imagination』は曲ごとにいろいろな日常の気持ちを言っているけれど、じゃあその曲がなにかについて突きつけるメッセージかというと、決してそうではなくて、もっとイメージが膨らむものになっていると思う」(伊藤大助、ドラムス)。

 クラムボンは、自分たちが普段耳にする〈生活の音〉が〈音楽〉として聴こえる瞬間があると語る。

「そういう瞬間を知れば知るほど、人が鳴らす音の魅力もどんどん深くなっていくと思う」(ミト)。

 単に日常を擦り合わせるだけでは生まれない、平熱のエンターテイメント。“おかえり”で飛び交う電子音や眩いまでのリヴァーブのあとにある無音のなか、あなたはあなた自身の音楽を発見することができるだろうか。

▼クラムボンの近作を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年12月04日 15:00

更新: 2003年12月04日 18:30

ソース: 『bounce』 249号(2003/11/25)

文/駒井 憲嗣