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インタビュー

高田漣


 お気に入りの美味いハンバーグ屋さんで流れているような音楽──高田漣のファースト・アルバム『LULLABY』を聴きながら、いつも辺りに漂う美味しそうな匂いを嗅いで楽しんでいた。そこいらの歌声以上に歌心を感じさせる彼のスティール・ギターの調べに心を奪われてから1年と少し、ここに待望のセカンド・アルバム『素晴らしき世界』が届けられた。

「前作がモノクロなら、今回はカラーになったって感じかな」と彼は語る。プロデュースを務めた鈴木惣一朗をはじめとするレギュラー・メンバーに加え、RAMのチームメイトである伊藤ゴローや、高田がアルバムおよびライヴにてバックを務めたAnn Sallyなどをゲストに迎えて制作された本作は、エキゾな香りのするオリジナル曲が要所要所に置かれており、ドラマティックな流れが形成されているところがミソ。

「音作りは随分変えたかな。前作はストイックさがあったと思うので、もうちょっとキラッとした感じのポップさをめざした」。

 各所で〈いぶし銀の魅力〉と絶賛された前作は、タジ・マハール、ニール・ヤングなどのいにしえの名曲を味わい深く料理した素敵な作品であった。が、ひょっとするとこれって10年後ぐらいに〈隠れた名盤〉と再発見されて騒がれたりするようなアルバムだなとも感じてしまったのだが、そこが不安な点であったことも事実。

「そう! それは僕もイヤな感じがあった。あまりに団塊の世代受けしすぎてるから(笑)。ショックだったのは、〈知ってますよ、シンガー・ソングライター好きの人ですよね?〉って言われたこと(笑)。確かに間違ってはないけども、初対面の人にそう言わせちゃうアルバムを僕は作ったんだ、って思って」。

 しかし、今回の『素晴らしき世界』は俺にとっての〈同世代音楽〉。正直な気持ち、そう思えた。彼が掴んだ確かな手応えと自信が音から立ち昇ってくるのだ。

「それは考えました。もっと開かれたものを作らないと、人の作品に参加したりRAMをやってることが嘘臭く……っていうか仕事っぽく見えちゃうんじゃないか、と思って。実際いろんなことができる現在の環境を楽しんでるから。守りの試合はなるべくしない。マイルス(・デイヴィス)がすごく好きなので、絶えず変わり続けることに興味があるんです。変わらないものを持ちつつね」。

 現代のブルースマンはひとつの型を懸命に追求するのではなく、四方八方に転がっていく姿勢こそが相応しい。トラヴェリンマン、高田漣。

 ところで、そんな〈ギターを抱えた渡り鳥〉のような彼だが、そもそものギター遍歴はどんなものだったのだろう。「幼い頃、うちにエレキ・ギターがなかったんですよね」と彼は笑うのだが、少年時代にはアコギを抱えて、自宅にあったジェイムス・テイラーのレコードに合わせて「コピーじゃなく、気分はセッション感覚で」ジャカジャカとギターを弾いていたらしい。MTVから流れてくるヒット曲を楽しみつつ、次第にライ・クーダーなどダウン・トゥ・アースな音楽に目覚めてゆき、「すぐにスライド・バーを指にハメてた」。そして「人とは違う楽器をやらなきゃ生き残れない(笑)」と模索している最中、「容姿の可愛さに一目惚れ」しちゃったペダル・スティールと出会い、彼の活動のフィールドと音楽人生はグワッと拡がっていくことに。

「今もそうだけど、興味がいろんな方向にいっちゃうタイプで。例えばハワイアンを掘り下げたらバランス感覚が働いて、他のものへ向かわないと自分がおかしくなる。だから、いろんな音楽を聴いてました」。

 その広がり具合はこのセカンド・アルバムにくっきりと表われている。ケルトありブラジルあり、でもって形の変わった椰子の木が生えてたりと不思議なランドスケープが浮かぶ。〈越境音楽〉という呼び名がピッタリとフィットする世界。ノット・ミクスチャー・ミュージック。

「言っちゃうと、楽器の音とかどうでもいいんですよ。それより音が鳴っている部屋の音とか、みんなの呼吸とかのほうが僕にとっては大事で。とにかくスタジオの中で起きていることをキャッチしたい。いろんな意味で、雰囲気のいいものを作ろうってことはいつも考えてて」。

 香ばしい匂いが鼻をくすぐる最高のムード・ミュージックがまたここに完成した。あまりの嬉しさにまたご飯をおかわりしたくなる。

PROFILE

高田 漣
フォーク・シンガーである高田渡の長男として、73年に生まれる。90年に故・西岡恭蔵のアルバム録音に参加し、その後さまざまなアーティストのライヴやレコーディングに参加。ハワイアン・スラックキー・ギターの名手、山内雄喜と出会ったことによってスティール・ギターやペダル・スティール・ギターを本格的に始め、2002年にはファースト・アルバム『LULLABY』を発表。そのダウンホームなギター・プレイが注目を集める。Ann Sallyや畠山美由紀、小泉今日子、ハナレグミなどのレコーディングへの参加ほか、青柳拓次らとRAMを結成するなど多彩な活動を繰り広げるなか、このたび2作目となるニュー・アルバム『素晴らしき世界』(nowgomix)が11月27日にリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年12月18日 16:00

更新: 2003年12月18日 17:45

ソース: 『bounce』 249号(2003/11/25)

文/桑原 シロー