インタビュー

Tsuki No Wa

緩やかに独自の〈歌〉を紡ぐ注目の4人組が、豪華ゲスト満載のニュー・アルバムをリリース!!


 東京某所にひっそりと佇む古めかしいバレエ・スタジオを主な舞台として制作された一枚のアルバム、それが通算3作目となるTsuki No Waの新作『Moon Beams』。

「Tsuki No Waとしては出発点ですね。これからどうするか……(笑)」とFuminoske(ヴォーカル/アコースティック・ギター)が途方に暮れるほどに、このアルバムは〈大作〉と呼ぶにふさわしい一枚だ。Farr(Calm)、大友良英、mama!milk、dj klock、市川実日子……と書き切れないほどに多彩なゲスト陣の参加、そして上記のバレエ・スタジオのほか、バーや友人の自室などで録音を行い、セルフ・プロデュースからなる徹底した〈自主制作〉のスタンス――と、「今回は制限をまったく設けずに、試したいことはすべて試しました」(庄司広光、サウンド・モジュレーター)という意気込みは、唖然とするほどに巨大な世界観を『Moon Beams』に刻み込むことになった。

「でも、意欲はあったんですが、なるべく力は抜いて、歌うことに集中するのではなくて、なにかを伝えることに集中してました」(Fuminosuke)。

 そうして生まれたのは、残響音をたっぷりと含んだ楽器の〈素〉な音色やメンバー間のリラックスしたムード。スタジオの密室作業からは生まれ得ないそれら音の数々を、膨大な時間をかけてメンバーみずからがミックスやマスタリングしたこともこのアルバムを特別なものにしているのだろう。
「確かに作業的には膨大でしたね。画面に並んでるトラックを見ると本当に壮観で(笑)。できないときはもうできないんで、手を付けずに横になっていたりとか(笑)」(庄司)。

 そんな制作プロセスを経ているからこその世界観。Fuminosukeはその徹底的にオリジナルな『Moon Beams』の世界をこう説明してくれた。

「今回は〈月の光〉というよりも、〈光線〉のイメージ。しかも夜の月の光ではなくて昼間の午後の柔らかい光線のようなものが。あと、なにかの〈狭間〉ですね。光と影の間とか、重力と無重力の間とか」。

 アシッド・フォークと電子音楽がなだらかな坂道の向こうからゆっくりと転がってくるかのような、またはいつか見た夢の断片を丁寧に繋ぎあわせたような……ともかく『Moon Beams』にはいまだ誰も見たこともない景色が広がっている。

「おもしろい音楽だとは思いますね。音楽というものの不思議さというのはここにあるのかも、とは思います」(Fuminosuke)。

 年に何度も使うべきではない〈傑作〉という表現は、このアルバムのためにある。

▼『Moon Beams』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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掲載: 2003年12月18日 17:00

更新: 2003年12月18日 20:17

ソース: 『bounce』 249号(2003/11/25)

文/大石 始