インタビュー

KICK THE CAN CREW

ニュー・アルバム『GOOD MUSIC』は、KICK流の解釈によるソウル・アルバムなのか!?


 先ごろリリースしたベスト・アルバムがオリコン・チャートで初登場1位をゲットし、これでKICK THE CAN CREWも、めでたく〈No.1アーティスト〉の仲間入りである。そんな数字なんて音楽と関係ないよ……とか言う人もいるのだろうが、そんなことはない。誤解を恐れずに言うと、やはりNo.1にならないと見えてこないものがあると思うし、No.1アーティストにはそれ相応の作品レヴェル、革新性、大衆性、オリジナリティー、普遍性、その他もろもろを背負っていただかなくてはいけないわけで、こちらとしては要するにプレッシャーをかけたいんですね。僭越ながら。いい加減なものを出したら許さないぞ!という、わがままかつ気合いの入ったリスナーが、もっといてもいいじゃないかと。もちろん、それがKICK THE CAN CREWだからという、絶対的な信頼感があるのは当然の前提として。

 そして届けられるのが、1年ぶりとなるアルバム『GOOD MUSIC』である。ハッキリ言って予想以上、必要にして十分な傑作である。まず前作『magic number』とは耳に当たる印象がかなり異なり、音数ギリギリ、シンプルで太く引き締まったビートを共通項としつつも、曲調は豊潤かつカラフル。それはKREVAがみずからの声の使いように目覚め、メロディアスなフックとコーラスを多用したこととも関係があるようで、ひとことで言うなら声、音質、楽曲のハイレヴェルな三位一体。そのあたりのポイントについて、KREVAにドドーンと一気に語ってもらいましょう。

「基本的に、いままでと作り方は変わらず。時間がないことが、いい方向に作用することもあるんですよ。余計なことを考えずに済むから。でも、わりとすぐに〈これで良し〉っていう曲ができるようになってきた。なんでかって言うと、パーカッションとか、スネア、キック、つまりドラムのキット一個一個をライブラリー化するようになったから。そのへんは、顔PASSブラザーズ(DJ TATSUTAとKREVAによるプロデューサー・チーム)でやって得たものがすごく大きいな。タツティーが、すごく曲の構成を気にする人なんですよ。ふたりで〈うーん、あと何入れる?
 金属?〉〈トライアングル? タンバリン……〉〈あっ、オレ持ってるよ〉とか、そういう話をしてる。サンプリングの割合は、前よりももっと高くなってます。相当いい音で録れてるから、わかんないでしょ。生かな?ってね。あと変わったことと言えば、いままではフュージョンとか、ワールド・ミュージックと呼ばれるもののレコードばっかり買ってたんですよ。ネタとして。でも最近、ソウルとかも買うようになってきた。しかも、聴いて〈イイな〉と思ったのは、75年以前のもの。楽曲構成がシンプルだし、〈あっ、この楽器とこの楽器とこの楽器で曲が成り立ってるんだ〉っていうインプットがあったから、そういうのが出てるところはあるかもしれない。歌に関しては、たしかにコーラスが多いかもね。〈へぇ、オレ、こんな声出るんだ〉とか、そう思うようになったんで。声の奥行きとか、そういうことにも口出しできるようになってきた。〈その低い声はもっと前に置いて〉とか〈その声はもっと小さくして〉とか。そういうことを考えられるようになってきたので、イメージしながら歌ってます。そこが前とは違うところ」。

『GOOD MUSIC』は、KICKなりのソウル・ミュージックの解釈?と訊くと、「うーん、そこまでは考えてないけど」とKREVA。それでもやはり、ジャコ・パストリアスをサンプリングした“性コンティニュー”のファンキーなフレーズ、“ナビ”のギター・カッティング、“パンク寸前のFUNK”にKREVAが放り込んだ〈フォーッ!〉というマイケル・ジャクソンばりのフェイクなど、そこかしこにファンク、ソウルの香りが満ち満ちていて、これはやはり、KICK流のソウル・ミュージックと言いたくもなる。かつての“タカオニ”“ユートピア”“LIFELINE”を思わせる情緒たっぷり哀愁路線や、“GOOD TIME!”“イツナロウバ”“マルシェ”のようなアップテンポのポップ・チューン、そして、そのどちらのタイプにも当てはまらないような、ちょっとクールだけど人懐っこく、歩くテンポにもよく似た軽くファンキーな曲たちが『GOOD MUSIC』には仲良く詰まっている。

 ちなみに歌詞は、なにかメッセージを期待して聴くと拍子抜けするほど自然体。3人の日々の暮らしを綴ったような言葉が、完成されたオリジナリティーを持つ三者三様のラップで語られる。とくに、ラストの“もしも”ほど、歌詞の面で3人の個性の違いを際立たせた曲もかつてなかっただろう。

『GOOD MUSIC』――いままででいちばん日常生活のなかにさりげなく溶け込むことのできる、愛らしいアルバムである。

▼KICK THE CAN CREWがこれまでにリリースしたアルバムを紹介。

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掲載: 2004年01月15日 13:00

更新: 2004年01月15日 17:31

ソース: 『bounce』 250号(2003/12/25)

文/宮本 英夫

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