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インタビュー

Syrup16g

これまでの音楽世界から、新たな扉をこじ開けて見えてきたものとは?


 すべてをあきらめきったような荒涼とした地平に射し込む一筋の光――Syrup16gの新作『My Song』は、倦怠のなかで死を夢見るような、これまでの彼らの音楽世界から新しい一歩を踏み出した記念すべき作品である。世界に対する悪意と諦念の果てに産み落とされた、絶対零度のアコースティック・バラード“My Song”。どこまでも美しいメロディーとあまりにも真摯な言葉が打ち放つ、この圧倒的な説得力はいったい何なのか? すべての詞曲を生み出す五十嵐隆(ヴォーカル/ギター)は言う。

「そもそも音楽をはじめるうえで、〈このままじゃいかんだろ?〉っていう思いがあって、〈なんでこうなっちゃったんだろう?〉〈どこまで病んでるんだろう?〉っていう〈カルテ〉をこれまで〈作品〉として作ってきたんです。とりあえず自分のなかにある悪い奴だか敵だかっていうのを退治しなきゃいけないと。でも、『HELL-SEE』を作ったことによって、もう自分のなかの地獄ってものが見えたような気がしたんですよね。だから、“パープルムカデ”以降、とくにこの『My Song』とかは、その荒涼としたなかでもっと確かなものを掴みたいっていう気持ちが強くなってきてるのかもしれない」。

 当初シングルでの予定だったにも関わらず、全15曲1500円という逆ギレたリリースとなったアルバム『HELL-SEE』。そして、初めてのシングル“パープルムカデ”。最終的に『My Song』へと至るSyrup16gの2003年は、混沌の極みから緩やかな再生へと向かう、ひとつの過渡期としての一年であった。

「やっぱり僕は、音楽を聴くってことに、それ以上の意味を付け加えたいんです。もちろん、音楽は音楽として愛してるけど、音楽って人の心にすごくストレートに入ってくるものじゃないですか。そういう有能なツールなんだから、それを使ってもっと聴く人と深いコミュニケーションをとっていきたい。音楽って日々消費されていくものだし、感情だって毎日消費されていくんだけど、そのなかで何か確かなものを掴み取っていけば、この音楽もなにがしかの価値を持ち得るんじゃないか? いまはそんなふうに考えてるんです」。

 次のステップへと向かう布石であると同時に、五十嵐自身の〈生〉のドキュメントでもある本作。ここに収録された5曲がこじ開ける扉の向こう側には、果たしてどんな世界が広がっているだろうか? 2004年の春ごろにリリースを予定しているというアルバムの行方を占う意味でも、実に重要な作品である。

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カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年01月22日 18:00

更新: 2004年01月26日 16:30

ソース: 『bounce』 250号(2003/12/25)

文/麦倉 正樹