インタビュー

Hatebreed



〈今手にしているものは俺たちのものじゃない/個人的な利益や貪欲さなんか関係ない/これが心からの自由への渇望なんだ〉――ヘイトブリードの新作『The Rise Of Brutality』に収録された、ジェイミー・ジャスタ(ヴォーカル : 以下同)いわく「リハーサルでプレイしてるだけで何百ものキッズたちがこの曲に合わせて叫んでる姿が思い浮かんだんだ」という“Live For This”のリリックだ。余計な説明はいるまい。ヘイトブリードとはそういうバンドだ。

 さて、現在の彼らはこれまでにないほどの追い風を受けている。『The Rise Of Brutality』は、ハードコア・バンドとしては異例なチャート・アクションを示した前作『Perseverance』以上のヒットを記録中。またジェイミーが伝説のラウド・ロック専門TV番組「Headbangers Ball」の司会者に抜擢されたことでその存在をアメリカのお茶の間にまで知らしめることになった。

「俺たちには目標があった。それは誰にも負けないくらい強力なバンドになってやろうってことさ。べつにロックスターになりたいとか、アルバムをいっぱい売りたいとか、そういうものではまったくない。世界中のキッズが俺たちの曲で一気に盛り上がってくれる瞬間、それが最高なんだ。俺たちは自分の信念に基づいて生きているから、活動のなかで傷ついたりしたこともあったんだけど、そのおかげで今俺たちをサポートしてくれるキッズがいるんだ。成功ってのはタダじゃ手に入らないもんなのかもな」。

 そう謙虚に話すジェイミー。じゃあ質問を変えよう。これまでも〈ハードコア/メタル・バンド〉と語られてきたヘイトブリードだが、今作は80年代後半のスラッシュ・メタル全盛期を思わせる切れ味鋭いリフがそこかしこに仕掛けられていて、あきらかに前作以上にソリッドな仕上がりではないか。前作がモンスター級の成功を収めたことに対するプレッシャーはなかったのだろうか?

「レコーディングでは常に楽しむことを一番にしてるんだ。そして、一切余計なことは考えたりしない。〈前より成功したい〉とか〈前作が成功したから今回はプレッシャーを感じるなぁ〉とかいったことはね。自分たちが楽しめない楽曲でなんでキッズが楽しめるんだい?」。

 その〈For The Kids〉の姿勢は、メタリックなサウンドを身上とし、スレイヤーとのツアーも行っているヘイトブリードが結成以来変わらず持ち続けている〈ヘイトブリードらしさ〉であり、そしてそれは新作に関するこんなこだわりからも見てとることができるだろう。

「ひとつこだわったことといえば、俺たちはハードコア・バンドなんだってことかな。いろんな要素がこのアルバムには入ってるって言う人もいるけど、基本的にはすべてハードコア・ビートだ。俺たちにはこれしかないし、それでイイとも思ってるからね」。

 振り返ればヘイトブリードの歴史とは、彼ら流のハードコア・サウンドを丹念に磨いてきた鍛練の歴史ではなかったか。それはハード・エッジなリフにおいても、苦悩や怒りをリアルに写しとりながらも根本にポジティヴィティーを秘めたリリックにおいても。だがその鋭さゆえにハードコアのファンのみならず、ラウド・ミュージックを愛するあらゆる人間に刺さる音と言葉、それが彼らの魅力なのだ。『The Rise Of Brutality』の冒頭を飾る“Tear It Down”にこんな一節がある──〈その重荷も争いの原因も全部ぶっ壊しちまえ/檻もクソみたいな悪も全部ぶち壊してやれよ/お前自身の歪みきった考えも全部ぶち壊しちまえ/押し付けられた価値や信念なんかぶち
壊してやればいい〉。

 彼らのライヴでは巨大なモッシュピットが会場を揺るがすという。このアルバムは聴くものをその輪のなかに後
押しするほどの強烈な音の塊が渦巻いている。さあ、モッシュピットで待ってるよ。

PROFILE

ヘイトブリード
95年、ジェイミー・ジャスタ(ヴォーカル)を中心に結成されたコネチカット出身の4人組バンド。現メンバーはジェイミーのほか、ショーン・マーティン(ギター)、クリス・ビーティー(ベース)、マット・バーン(ドラムス)。自主制作盤の発表を経て97年にはヴィクトリーと契約、ファースト・アルバム『Satisfaction Is The Death Of Desire』をリリースする。ソウルフライやモーターヘッドとのライヴ共演も評判となり、同作は破格のセールスを記録、メジャー進出のきっかけを掴んだ。2002年にはセカンド『Perseverance』、2003年10月にはサードとなる『The Rise Of Brutality』(No Name/Universal/Roadrunner)を発表している。このたびその日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年01月29日 12:00

更新: 2004年01月29日 18:43

ソース: 『bounce』 250号(2003/12/25)

文/大石 始