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インタビュー

パードン木村


ヤン冨田プロデュースによるアルバム『Locals』でデビュー、ハワイに雪を降らせるというコンセプト・アルバム『Frozen Hawaii』ではハワイアンに冷たーい空間処理をかまし、最近はジャズ・カルテットにダブ・エンジニアを加えた菊地成孔ダブ・クインテットの一員としても活躍するパードン木村。〈音響職人〉の呼称で親しまれ、サーフィンと蕎麦打ちを愛し、工作のようにヒョイと新鮮な音楽を紡ぐ40歳の紳士は……そもそも職業ミュージシャン歴20年の大ベテランだったりする。

「モノを作るのが好きなんですよ。昔は立体のオブジェを作って個展とかもやっていて。音楽を全然やらなかった時期というのは二十代の頃に2年くらい。その頃は自動車とサーフィンにハマっていましたね。あの頃は楽器とかも手放して。車イヂリもお金がかかるんでねぇ(笑)」。

静かに自由人の気風を漂わせる彼だが、その音楽も全くもってフリーフォーム。新作『Silly Wake』では、既存の進行感や打ち込み音楽の反復感に慣れた耳は、常に心地よく裏切られる(その不思議体験は試聴リンクより)。リズムもメロディーも位相も、三回まわってニャンコロリ……といった風情だ。

「いわゆる〈ただ複雑なもの〉っていうのは、コンピュータを使って適当にやっていたらできてしまうものなので(笑)、そういうものは面白くない。(シンプルな中で)より効果的なモーションをどれだけ作れるか。どう演奏感とか律動感というものを反映させるか、ということを考えています。本質的なミニマル、ミニマムでもマキシマムであるという。建築にしてもフラードームなんかが好きですね」。

彼は会話の中で〈演奏感〉、〈律動感〉という言葉をよく持ち出す。打ち込み音楽でありながらそれを伴っているという意味では、セニョール・ココナッツがお気に入りだとも。菊地成孔、坪口昌恭、クワイエットストームらが参加した今作に関しては、モダン・ジャズの〈演奏感〉と初期ヒップホップのもつ〈律動感〉が制作の原点としてあるようで。

「ヒップホップ・ショックというのは、僕らの世代にはすごくあって。(ターンテーブルという)簡単なインターフェイスで、ある意味手放しで(ミックスによって)調性感を得ることができて、違う時間軸をとりいれたりできる、という部分をすごく好きになったんです。それこそ当時の合言葉は〈フレッシュ!〉みたいな(笑)。僕は、こういう歪んだ音こそがヒップホップだという事よりも、ヒップホップの〈フレッシュ〉さというものに惹かれる。〈そうか、それがあったか!〉というのがカッコいいわけで。菊地さんとのダブ・クインテットにしても、〈アコースティック・ジャズをダブで飛ばすというのはなかったなあ!〉っていう〈フレッシュ〉さがありますし」。

その音楽観は既に完成しているように見えるが、彼は昨年から音楽の学校に通っているという。それは、あの菊地成孔の〈商業音楽理論〉講座。パードン木村は〈マイルス・スクール〉ならぬ〈ナルヨシ・スクール〉の誇る才能でもある。

「それこそ40歳になって学校行くと、普通の状態よりも相当がんばんないと暗記がキツくって(笑)。でも好きなことだったらがんばれるから。例えば(昔覚えた)車の吸気排気効率が、楽器の電圧調整に応用できたりとかする。昔は〈無駄使いばっかりしやがって〉って言われていたけれど、すごく一所懸命やっていたから身に付くわけですよね。自分の中で夢中になれることがあったら、しめたものです(笑)」。

氏の好奇心と職人性のバランスから生まれた立体盤、それが『Silly Wake』だ。


・『Silly Wake』収録曲目

1. TALKING WALTZ ♪試聴する
2. CLOCK AROUND THE ROCK  ♪試聴する
3. Sitting On The Jeffreys Bay ♪試聴する
4. MINOR CHROMATIC HUMMINGBIRD ♪試聴する
5. UNDER WATER STONE ♪試聴する
6. 6EYES 8FEET 1.2TAIL ♪試聴する
7. Good Morning Sleep Tight  ♪試聴する

→ミュゼのイヴェント〈intoxicate〉に、菊地成孔クインテット・ライブ・ダブの一員として出演!

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2004年03月11日 17:00

更新: 2004年03月11日 20:27

文/リョウ 原田