きたはらいく
シンプルに紡がれたプレ・デビュー盤を経て、期待のシンガー・ソングライターが本格始動!
彼女の歌――柔らかなピアノの音色、心地良いメロディーと快い声で紡がれる言葉は、録音物であるにも関わらず、目の前の空気を揺らしていた。私の傍らで、いまこの瞬間に感じる想いを歌ってくれていると錯覚するくらいに、ナチュラルに、屈託なく。
「いちばん好きだなって思うのは、70年代のキャロル・キングだったりジェイムズ・テイラー、ジョニ・ミッチェルとか。自分の言葉で歌ってる感じがするというか、その人が普段しゃべってる延長線上にあるっていうのかな。それが歌としてすごく強い気がするんですよ」。
そんな彼女――きたはらいくのファースト・ミニ・アルバム『耳をすませば』は、ほぼピアノと声のみで構成されたプレ・デビュー盤(デモテープ音源集)『・・・・そして、理解を』で聴かせた〈シンプル・イズ・ベスト〉な魅力を継ぎつつ、ジャズの解放感やワルツのたゆたい、さまざまなリズムとメロディーが躍動し、その歌を多角的に際立たせている。そこに立つ声の表情も実に豊かで……やがて、至極個人的な彼女の日常を切り取ったはずの景色や感情が、誰もが懐かしく、切なく胸を疼かせる情景となる。そんな瞬間をいくつも、幾重にも同衾させて、彼女の歌は響いていく。
「曲作りの基本にあるのは……気持ち良い、とか。言葉とメロディーがいっしょに出てきて、その一節から気持ち良いなぁと感じる方向に広げていって。“耳をすませば”も、最初の一音とか〈この音がいちばんこの歌のテーマに合ってる!〉って感じで」。
「少しだけ通ったピアノ教室で、“ネコふんじゃった”の黒鍵の音に心奪われていた子供のころと全然変わらない」と彼女は面映そうに笑う。彼女が感じる〈気持ち良い〉や〈好き〉の根本にある思いこそが、その〈うたごころ〉を育んできたものなのだろう。
「ひとつの事柄をわかってもらうには、相手の立場、目線に立たないと理解してもらえないよって、友達が教えてくれて。〈わかってよ〉じゃなくて、同じ目線で同じ場所に立って、そこからなにか始まっていくもの……『・・・・そして、理解を』『耳をすませば』っていうのは、そういう意志を含んでて。そういう気持ちが歌の原点か?っていうと……そうでありたいなぁ、とは思う。そうできないこともすごくいっぱいあるから(笑)」。
うん、大丈夫。あなたのうたは優しい(易しい)ものだって思いますよ。