インタビュー

UA

太陽の恵みから生まれた歌の数々――新たな物語の始まりを告げるニュー・アルバム『SUN』


 UAは、今、新しい物語を紡ぎ始めた。その物語の始まりを告げるのが、ニュー・アルバム『SUN』である。しかし、この新しい物語『SUN』について書く前に、UAがこれまでに描いてきた物語の何が終わったのか、そのことを明らかにする必要があるだろう。

 UAにとって音楽は、デビュー以来8年間、ずっと変わらないひとつのテーマを内包しているものだった。もちろん彼女自身は毎回日記的に書いていただけで、決してそれを意識的にテーマとして考えていたわけではなかったそうだが、昨年リリースした初のベスト・アルバムでみずからの歌を振り返ってみたとき、自分の歌には常に〈二元性〉が歌われているということに気付かされたと彼女は話している。それは簡単に言えば、〈私とあなた〉〈男と女〉〈光と影〉、そういう、どちらか一方がどちらか一方を求め続け、ひとつになりたいと願う、そういう歌ばかりだった。彼女はこう言っている。

「あのベスト盤は、私の最初の、抜け出さなくてはいけない時代の最後を締め括ったような感じだったんだよ」。 

〈私は〉と意識することで〈あなた〉を求める歌。そして、いつも自分が生きていくためにUAとして歌っているのだとしかいいようのなかった8年間。それは、〈空の小屋〉ツアーを終え、ベスト盤を作ることで、ひとつの長い物語を終えたのだという。ベスト盤のタイトルを『Illuminate』(正覚)とつけたのも、次の物語に進もうとする彼女の意志の現れだったのだそうだ。

 そして、次なる物語、『SUN』である。このアルバムに向かうためのヴィジョンとして、昨年の夏に旅したモロッコで見た夕陽のことがあるのだと彼女は続ける。

「モロッコは太陽の光がもうぜんぜん違っていて、夕陽のパワーがすごいんだよ。日本は〈日出ずる国〉、モロッコは〈日没する国〉って言われてるんだよね。私はそれが見たかった。心は、とっても夕陽、夕陽の時代って思ってたから。それは、なんか、終わるだとかいうネガティヴな言葉ではなくて、夜に向かうとかいうことでもなくて、それは必ずしもノスタルジックなものとかではなくて、ただただシンプルに夕陽がものすごく強い、ものすごい生命の色」。

 UAは、モロッコの自然のなかで夕陽を見つめることで、太陽があるから空が輝き、大地に色を映すことを知り、太陽があるから空は時間につれてゆっくりと、しかし確実に色を変えていくことを感じ取り、そして、太陽があるからこの世界があること、自分もいるということを実感したと話す。

「で、アルバムが始まるな、というとき、最初に書いた曲が“忘我”という曲だった。そのときにはもう確実に表現したいことがあったし、だから、すごく気合いを入れてじゃないけど、腰を据えて書いた。その表現したいこととは、〈私とあなた〉じゃなくて、〈私を忘れる〉ということからこのアルバムを始めたいと思っていたということ。そういう、とてもあたりまえのことが歌いたいと思った。ものすごく」。

“忘我”はこう歌われている。〈私と世界を分かつものはもう 今は無くてただ嬉しい〉と。この歌から始まったアルバムは、私が〈私〉だと感じられるのもすべては、この光があるからだという、その地球の偉大な仕組みを愛しくポジティヴに受け取り、静かに見つめた彼女の視線から綴られているものばかりだ。たとえば、モロッコで出会った子供たちの歌声が使われた“ファティマとセミラ”が描くのは、その人間の生命とその土地に息づくすべての生命の話だし、バリ島でのガムランの音が収録された“UaUaRaiRai”では、鳥が鳴くような彼女の歌声で、水、空、風、雲、鳥、魚が同じ世界の物語として描かれている。

 そういえば、この地球がこうして何億年も続いているという〈あたりまえのこと〉を、彼女は「それこそが神話そのものだ」と言っていた。そして、「歌で、そんな神話を歌えないかなと思っている」とも。その第一章が、太陽の光から生まれたこの地球の歌の数々、まさしく『SUN』で表したかった世界なのだと思う。

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掲載: 2004年03月25日 18:00

更新: 2004年04月01日 19:22

ソース: 『bounce』 252号(2004/3/25)

文/川口 美保