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インタビュー

Freeland


「いつも世界中をDJしながら回ってるよ。だいたい1週間に4日は飛行機のなかさ」。

 こんな言葉が大袈裟に聞こえないほど多忙を極めるブレイクス界のスーパースター、アダム・フリーランド。DJとしての実績は言うに及ばず、プロデューサーとしてもヒット・シングルを数多く放ってきているシーンの最重要人物だ。

「僕は自分にしか出せないブレイクビーツのスタイルを確立することによってDJとしての地位を得たし、いまはブレイクス・シーンが存在しないところでブレイクビーツを紹介する重要な役割も持っていると思う。オーストラリアなんかはいい例だね」。

 そのように自他共に認める〈ブレイクビーツの伝道師〉として大きな役割を担う彼のアーティスト・アルバムは、多くの人が待ち望んでいたものだ。バンド編成を成す今回のプロジェクト=フリーランドのメンバーは「ブライトンの各雑誌の〈さびしんぼう募集〉コーナーで探したんだ」と冗談めかしているが、「楽曲の持つメッセージ性を視覚的に見せてくれる素晴らしいチームだよ」というライヴ用の映像クリエイターまで揃えているあたりに、このプロジェクトに対する彼の意気込みが伝わる。それは肝心の音にも如実。ブレイクビーツがドッシリと根底に横たわっているものの、ミックスCDだけでは表現しきれなかった多様な音楽要素(ヒップホップ、ハウス、ダブ、ファンク、ロック……)の遺伝子をそこに注入し、さらに今作の肝である生音が生み出すライヴ・フィーリングにより、ダイナミズムを獲得することにも成功している。そうやってタフで躍動感のある音を手に入れた反面、バンド要素の導入は、エレクトロニクスのみで作るサウンドに限界を感じたからでは?という疑問も浮かぶ。しかし、それらは決してマイナス思考から生まれたものではないようだ。

「クラブ向きのブレイクビーツ・アルバムだけを期待されることは僕にとっては制約でしかなかった。僕はそれ以上のことを表現したかったんだ。このアルバムはさまざまなミュージシャンと作り上げたけど、みんな別々の場所でコラボレートしたから、全員揃ってジャムったわけじゃないんだ。最近ではエレクトロニック・ミュージックもロックも、ほとんどコンピュータを介して作られてるわけだし、ベースやドラムを録音して、後でそれをエディットしつつ、シンセを足したりビーツをプログラミングするっていう方法は僕にとって非常に楽な作業だった。でも、音的には生音と機械音を混ぜるのが好きだね。テクノロジーとオーガニックな要素を混ぜ合わせるのがカッティング・エッジなことだと思う」。

 多くの経験値を蓄え、いよいよ本領を発揮しようとしているフリーランド。彼らの持つスケールのデカさを本当に理解するには、この作品を聴き込むと同時に、やはりライヴを体験しなくてはならないだろう。「機会があれば嬉しいな。〈FUJI ROCK〉とかでプレイできたら最高だよ」という、そのステージではいったいどんな姿を見せてくれるのだろうか?

「DJする時とはまったく違うよ。ライヴだからね! DJの時は他の人のレコードをかけるわけで、どのような音を出してくれるのかわかるわけだよね。でもバンドとプレイするってことは、チームワークだとかステージ上でのメンバーとのヴァイブスなんかが音に影響してくる。でもいちばん違うところはエネルギーかな。ステージングっていうか、僕はステージでガンガンに暴れるからね!」。

 彼はすでに何度か来日し、DJも披露しているが、日本では正直まだまだブレイクスの盛り上がりはイマイチ。「イギリス、スペイン、東欧、アメリカ、アジアの一部、オーストラリア……ブレイクビーツ・シーンはかなりデカくなってるよ」というその勢いを、そして彼のこの音楽に対する情熱を、ぜひ日本にも浸透させてほしい。

PROFILE

フリーランド
プログレッシヴ・ハウスとブレイクビーツをミックスする〈ニュー・スクール〉なDJスタイルで不動の支持を誇り、ツナミ・ワン名義でも活躍するアダム・フリーランドを中心に、2003年に結成されたライヴ・バンド。メンバーは、アントニオ・スタイルス(ギター)、カルロス・フォーティン(ベース)、ジム・カーミッチェル(ドラムス)、アリソン・デヴィッド(ヴォーカル)、ジュース・アリーム(ヴォーカル)。デビュー・シングル“We Want Your Soul”がヒットを記録し、専門誌を中心に高い評価を得る。その後は映画「Animatrix」に“Big Wednesday”を提供。同年秋にリリースされたファースト・アルバム『Now & Them』(Marine Parade/ビクター)の日本盤が3月31日にリリースされる予定。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年04月01日 18:00

更新: 2004年04月01日 19:26

ソース: 『bounce』 252号(2004/3/25)

文/青木 正之