The Von Bondies
「ヴォン・ボンディーズっていう名前はマジな話、ぼくたちで作ったんだ。他の誰にも付けられない、そして誰にも忘れられない名前にしたかった。だから、何の意味もない言葉を作り上げたんだ。そうすれば間違いないと思ったのさ!」と、リーダーのジェイソン・ストールスタイマー(以下同)は事もなげに言い放った。
そうだったのか! ボン・ヴォヤージュ(よい船旅を!)とボンデージ(緊縛)を組み合わせたような名前に膨らませた勝手な妄想は軽く却下だ。でも、それでいいのだ。ロックンロールをやる者は、ワケのわからないことを言うほうがいい。
またしてもデトロイトから現れたニューカマー、ヴォン・ボンディーズ。ざらついた激しいサウンドに加え、ときにグラマラスでポップな可能性を垣間見せる、男女2人ずつの4人組だ。
2001年に発表されたファースト・アルバム『Lack Of Communication』は、デトロイトの先輩株、ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトと、同じくダートボムズのジム・ダイアモンドがプロデュース。BBCでのライヴ盤を経て、欧米での熱烈な評価の高まりに押され、待望のセカンド・アルバム『Pawn Shoppe Heart』でついに日本初登場となった。ジェリー・ハリソン(元モダン・ラヴァーズ/トーキング・ヘッズ)のプロデュースは、バンドがデビュー以来のライヴで叩き上げてきたレパートリーを、激しさを損なうことなく研ぎ澄まさせている。
「ぼくがデトロイトに越してきたのは18歳になってからだ。デトロイトには何にもない。だから、音楽が埋めてくれるんだろう。街に空いた穴が音楽で埋め尽くされているんだ。これまでに会ったデトロイトのバンドはみんな、まったく同じことを言ったよ。テッド・ニュージェントからイギー・ポップ、ダートボムズまで、みんな同じだ」。
行き止まりの街には、そこを飛び出すためのエネルギーがふつふつと渦巻いている。
「19歳のときだった。音楽をやりたいと思ったきっかけのひとつが日本のバンド、ギターウルフだったんだ。クランプスといっしょにライヴに出ていてね。それを観たら、ぞっこん参ってしまった。そして、その年に最初のバンドを組んだんだ。あの頃はギターの弾き方も歌い方もロクに知らなかったけどね。その後メンバーも変えて、2000年にヴォン・ボンディーズになったのさ」。
ほどなくして彼らは地元で脚光を浴びるようになった。つまらない日常に端を発した激しく攻撃的なあえぎ。しかし、ヴォン・ボンディーズの魅力はズバリ言って、それだけでは足りない。スクリーミン・ジェイ・ホーキンスやアニマルズに影響されたというガレージ的な荒削りのサウンドは、実はとても完成されている。アルバムのあちこちに知能犯めいた音楽性と、その先にある突破口が見えるのだ。クールなニュアンス(女性コーラスもいい!)と、破滅的なまでにラウドなロックンロールの共存には、意識はしていないかもしれないが、古典的なロックスターがもたらす快感が直結している。
「デトロイトって、かなり神話化されているのさ。あの街では誰もが音楽をやっているけど、それはロックスターになるためではなく、退屈だからなんだ」。
だが、こいつらはロックスターになるかもしれない。世話になったはずのジャック・ホワイトのご乱心で、パーティーで殴られるという事件(2003年末)には驚いたけど、それが単なるゴシップなのか、それとも、そうしたスキャンダラスでふてぶてしい美学をジェイソンが持ち合わせているゆえんなのか、ライヴを生で体験して確かめてみたい。
PROFILE
ヴォン・ボンディーズ
2000年、デトロイトで結成。ジェイソン・ストールスタイマー(ヴォーカル/ギター)、マーシー・ボレン(ギター)、キャーリー・スミス(ベース)、ドン・ブラム(ドラムス)で構成される4人組ロックンロール・バンド。2001年のデビュー・アルバム『Lack Of Communication』は、ジャック・ホワイト(ホワイト・ストライプス)らがプロデューサーを務めたこともあって、ガレージ・ロック・シーンを中心に話題を集める。そしてその評判がUKにも伝わり、本国以外のメディアからも支持を得ることとなった。その後メジャーと契約した彼らは、次作に向けてのレコーディングを開始。このたびセカンド・アルバム『Pawn Shoppe Heart』(Sire/ワーナー)がリリースされたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2004年04月01日 18:00
更新: 2004年04月01日 19:26
ソース: 『bounce』 252号(2004/3/25)
文/松永 リョウヘイ