インタビュー

小西康陽

女性たちに捧げた名曲集リリース記念、清く正しく美しい〈女性のポップス〉の魅力を紐解くQ&A!

『きみになりたい。』――80年代後半から、ピチカート・ファイヴとしての活動と並行して小西康陽が手掛けてきた女性シンガーによる楽曲のコンピレーション。本盤には松本伊代、三浦理恵子といった往年のアイドルから、観月ありさ、中谷美紀、市川実和子といった女優たち、ピチカート・ファイヴ、現レディメイドの看板娘=野本かりあ、いまだ記憶に新しい深田恭子などなどが収められている。

「いまのような仕事をめざしたのは、中学生ぐらいのころだったんですけど、そのころはアイドル全盛……麻丘めぐみさんとか南沙織さんとかいて、そのうしろに筒美京平さんとか森田公一さんとかっていう作曲家の方がいたんですよ。で、大学に入ったころ、自分でフロントに立って歌ってバンドやるっていうのは向いてないと気付いて作曲家になりたいっていうのが強くなったんですけど、僕がデビューするころには、アイドルの時代が終わりつつあった。だから、僕の作業って〈夢をもう一度〉的な感じになってるような気がする」。

――女性シンガー作品を手掛けるときの〈こだわり〉は?

「まず、絶対に写真だけは見せてもらう。実際、売れっ子の方ほど、忙しくて歌入れに立ち会えないことが多いこともありますし、ヴィジュアルからイメージが沸かない人には書けない。ヴィジュアルの第一印象がすべてなんですよね。僕の見た目の印象でしかないけれど、ヴィジュアルの第一印象に忠実に書くほうかな。とくにアイドル・ポップスって言われるような楽曲は、ロック以上に曲とルックスが合わなきゃいけないものなんじゃないかって思うんですよ。最近、ヴェテランの歌手の方ともお仕事するようになったんですけど、そういう方たちには歌唱力に見合った曲を作らなくちゃって思いますけど、アイドル・ポップスは違う世界ですからね。僕ね、詞もたくさん書いてるから、〈女の子の気持ちがわかってる〉とか、すごく誤解されるときありますよ。見事にわかってないんですけどね(笑)。すごく男性的な視点っていうか、男の理想みたいな感じで書いてると思うんだけどなあ。そういう曲を歌ってくれる方たちっていうのは、ある種、客観性を持ってる人っていうか、そういうものを楽しんでくれる方たちだと思うんですよね」。

――いま、〈こんな曲を書いてみたい〉〈この人に曲を書いてみたい〉という理想は?

「僕が作曲家になりたいと思ったときに、いつかこういう人に曲を書いてみたい、自分のグループでこういうヴォーカリストを探したいって思ってたのは小泉今日子さんだったんですよ。彼女の曲でいちばん好きなのは“艶姿ナミダ娘”で……そう、僕に楽曲を頼んでくださるディレクターの方たちってピチカート・ファイヴのイメージで書いてほしいって望んでることが多いから、わりとそういう曲調になってるんだけど、“艶姿ナミダ娘”みたいに、いわゆるマイナー・コードとかも入った、カンペキな歌謡曲っていうのを作ってみたいんですよね。いま、こんな人に書いてみたいと思う人は……ありえないけど、日暮愛葉さんみたいな歌い方をするアイドルがいたら絶対書きたい。そんなのいないよね(笑)」。

『きみになりたい。』は、単純に小西康陽が手掛けた女性シンガー作品集なのだが、ひとつの〈清く正しく美しいガール・ポップの在り方〉というものを提示している作品集でもある。それは、小西康陽自身が語るように、男性的な視点に偏ったものなのかも知れないが、決して〈男性上位〉にはなっていないから楽しいものになっているのだろう……そんなふうに思う。

▼『きみになりたい。』収録曲を収めたオリジナル・アルバムで現在入手可能な作品と、文中に登場したアーティストの作品を紹介。

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掲載: 2004年04月01日 18:00

更新: 2004年04月01日 19:26

ソース: 『bounce』 252号(2004/3/25)

文/ピ~ス!久保田